ビッグバン

火の玉宇宙

(2015年05月19日更新)

  • 今回のキリさんはビッグバン時の素粒子の動きに喩えて話をしています。 宇宙の起源を考える時に、大きな宇宙という世界も、極小の素粒子の世界が関連しています。 私たちの周りにも、小さな物事が大きな物事を支配することが往々にしてあります。 アメリカで起きた投資銀行の破産を引き起こしたリーマンショックも、一見関係の無いサブプライムという住宅ローンが引き金になっています。 風が吹けば桶屋が儲かるではないですが、関連性の無い小さな事柄が、大きな出来事に関連していくということが、世の中にはあるようです。 そういった意味で私たちは、複雑に絡み合った網の目の中に生きているのかもしれません。 ということで、今回はビッグバンのお話です。 宇宙の卵である火の玉宇宙は、どんな姿だったのでしょうか?そして素粒子の世界とは?

    ■宇宙の始まり

    現在私たちが理解している宇宙の始まりは、ある一点に集中した超高温・超高密度だった宇宙が一気に膨れ上がった所から始まったと考えられています。 このビッグバン・モデルは最初ベルギーの神父だったルメートルの「宇宙の卵」という考え方から、アメリカのガモフが発展させたものとされています。 しかし最初から宇宙が膨張していると考えられていたわけではありません。 当時宇宙はアインシュタインの静止宇宙モデルが主流でした。 この静止宇宙モデルを噛み砕くと、宇宙という三次元の空間(上下左右の空間)では、有限だが果ての無い宇宙が広がり、われわれが見ている宇宙と、そのほかの宇宙とでは違いは無い宇宙です。 もっと簡単に言ってしまうと、宇宙には起伏もなく、単調な空間が広がり、その面積は有限だが、果てなく進むことができる。 一見するとわけが分からないが、われわれの住む2次元空間と同じように、西に進めばそのままもとの場所に戻るように、その空間はある一定を保っていると考えればよいと思います。 ただ宇宙は3次元の世界なので、空間が上下にも広がるので、少しややこしくなってしまうだけです。 このアインシュタインの考えに続いて出てきたのが、今では宇宙モデルの主流となる、ドジッターの膨張宇宙でした。 膨張宇宙とは何かを説明するには、少しだけアインシュタインの静止宇宙モデルの補足が必要です。 アインシュタインは宇宙という空間と時間の科学を読み解くために、原理としてこの静止モデルを考え出しました。 しかし、この宇宙には矛盾があって、宇宙にはおびただしい数の物質がありますが、物質があるのであれば、その物質同士は引き合います。 そうです、ニュートンの「万有引力の法則」です。 宇宙がもし静止したままなのであれば、宇宙は互いに引き合います。 その結果、宇宙は縮小するはず。 ここでアインシュタインが考え方を変えなかったところがさすがは20世紀最大の天才です。 アインシュタインは宇宙が縮小しないため、「宇宙項」と呼ばれる、万有引力に対抗する斥力を加えることになります。 しかし、この斥力を入れた方程式を純粋に解くと、宇宙は逆に膨張しなければならない。 何故なら当時の宇宙の物質は観測もできないほど希薄で、宇宙を引き戻す斥力が働くのならば、宇宙そのものは広がらなければ成らない。 この考え方に基づく宇宙モデルが「膨張宇宙」となるわけです。 この膨張宇宙を広めたのが先に書いたルメートルです。 ルメートルはこのドジッターの膨張宇宙を元に論文を書きますが、同時に宇宙の起源も考えます。 何故なら宇宙が膨張するということは、そもそもの宇宙は小さかった可能性があるからです。 これも運動の第二法則、「物体に力がはたらくとき、物体には力と同じ向きの加速度が生じ、その大きさは力の大きさに比例し、物体の質量に反比例する。」を考えれば想像がつきますね。 宇宙が膨張するには小さな宇宙が何らかの形で膨張するきっかけを持つ必要があります。 この考え方を補完するように「宇宙の卵」という元の宇宙は高密度の塊だったとする考えを世に出します。 この考えが出発点となり旧ソ連出身のガモフが、高密度状態の宇宙が熱かったのではないかと考えます。 なぜ熱いと思ったのかは、現在の宇宙を締める物質が水素が75%を占めている事実があるためです。 何故水素が多いと宇宙が熱いという結論になるのかというと、熱いということは物質は原子核も分解されて、陽子や電子が結合して中性子が作られにくくなってしまいます。 そうすると、宇宙の温度が冷えないと今のような物質を作ることができません。 冷えた宇宙の場合は、中性子が大量に作られた結果、比較的重い原子核が出来上がってしまいます。 そうすると宇宙の始まりでは比較的重い元素があふれるわけですが、実際はほとんど存在していませんでした。 このことから宇宙は熱い「火の玉宇宙」だったことが結論付けられたわけです。

    ■宇宙を考えるときに、素粒子を考える

    このように宇宙が膨張していることが分かり、また宇宙の始まりは火の玉だったことが分かったわけですが、では何故だれも存在していない宇宙の始まりが分かったのでしょう。 まず、ガモフのモデルのように、宇宙が高密度高温度だった場合、その火の玉の物質はどうなるのかを考えて見ます。 物質はご存知のように元素でできています。 元素は原子核と周りを回る電子でできています。 原子核は中性子と陽子でできています。 原子核が電子を引っ張る力を物理学では中間子の働きによる「強い力」といいます。 高温度の物質は電子は原子核から分離しプラズマになります。 さらに温度を上げると原子核を構成する陽子と電子で構成されるようになります。 さらにさらに温度を1兆度くらいにすると、陽子も中性子もクオークと呼ばれる素粒子の領域になってしまいます。 宇宙が出来上がった時には、こういった物質の変異がそこらで起きたはずです。 そのために宇宙が始まった状態の物質を調べることで、宇宙の始まりを見ることができます。 いわば素粒子の世界が、宇宙の謎を解く鍵となるわけです。

    ■宇宙の始まりを調べる方法は?

    宇宙は火の玉から生まれたという仮説は、素粒子を調べた結果、たまたま都合の良い事実だっただけであり、決して宇宙膨張の原因ではないということです。 つまりは調べる方法がないのですが、ガモフは同時に現時あの宇宙にもその証拠が残されていると予言をします。 一体どんな予言をしたのでしょうか。 宇宙がもし火の玉から膨張したのであれば、その証拠が宇宙に残されています。 通常物質が膨張すると、その温度は下がり始めます。 例えば気体を放出するスプレー缶を考えれば分かりますが、気体は出てきたときに圧力差のため膨張します。 その際に気体は外部の空気を押しのける形になりますが、その分のエネルギーを熱エネルギーとして奪うため、気体の放出された周りはひんやりとした温度が下がった状態になります。 この原理は断熱膨張といって、冷蔵庫なんかでも利用されています。 宇宙が火の玉から膨張したのであれば、温度が下がるため、火の玉の時に放出された光も冷やされた状態で現在の宇宙に散らばっているはずで、その光を調べれば宇宙の最初が火の玉だったかが分かるということになります。 ガモフはこの光を調べれば、7度K(ケルビン:-260度くらい)程度だろうと予言していました。 この予言は後に宇宙のあらゆる方向からやってくる電磁波の一種であるマイクロ波(三度K宇宙背景輻射:または放射)が発見され、ビッグバン理論は定説と成っていくわけです。 ちなみに三度Kは大体-270度くらいなので、かなりの近似値です。

    ■宇宙の始まりがもたらしたもの

    アインシュタインの「相対論」から始まり、ルメートルの「膨張宇宙」モデルが作られ、そして「宇宙背景放射」の発見で、宇宙の起源は火の玉だったことが分かるようになりました。 その理論を支えたものは、現代物理学でもっとも進歩著しい、素粒子の世界から分かるようになってきました。 小さな世界が大きな世界のルールを作り上げていることがお分かりいただけたでしょうか? 極微細な素粒子が、宇宙のルールを支配する。 そう考えると何だか神秘的な気がしませんか? 物語はサロメをより細かく、素粒子のレベルにまで砕いていきます。 砕いた結果、サロメの物語はどのような姿を見せるのでしょうか?
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