木村カエラ 「Butterfly」

ショートストーリー:赤い糸で結ばれてく 光の輪の中へ

(2012年10月30日更新)

  • 暗い闇を抜ける。 乗っているカートはカタカタと音を立てて進み、少しづつ坂を登っていく。 向こうには光の丸い輪が見える。 その向こうには水が流れ、カートは急なスピードで落ちていく。 やがて水しぶきを上げて、僕の頭上を水が襲う。 その時僕は真実と、歓喜を手にすることは出来るのだろうか? 突然だが僕は超能力者である。 とは言え、イスラエルの奇術師と違い、スプーンは曲げることができない。 超能力といっても、全てが派手で身になる能力というわけではない。 勿論スプーンを曲げる能力もたいした超能力ではないが、僕のはもっとこう地味な能力だ。 僕の能力は、赤い糸が見える能力である。そう。世界に一人だけいるという、自分の運命の人と小指どうしで結ばれているあの赤い糸である。 とは言え、それはいつも見れるわけではない。 この能力はある出来事が起こったときだけに限定されているのだ。 僕がこの能力に気づいたのは1ヶ月前だった。 それは僕が校庭を歩いている時に、急に発動した能力のようだった。 僕が校舎裏の焼却場に、先生から言われた用紙を燃やしに行こうと歩いていると、急に上から大量の水が降ってきて、僕はびしょびしょになった。 その時に近くにいて駆けつけてくれた同じクラスの相葉と小宮の指先に、うっすらと赤い糸が繋がって見えたんだ。 僕も最初は水をかけられた腹立たしさでムカついて、そんなものには気づかなかったのだが、二人が同時に僕の体を拭くので、僕はその赤い糸に絡まって、さすがに何だこりゃということになって、そのまま声に出して言ってみた。 しかし二人は何のことかは分からない。 それはそうだ。小指に糸が結ばれてたら誰だって外すだろうし、そもそもそんな分かり易い付き合ってますよアピールして何の得があろうか。 しかし、僕はこの時は少し気が動揺していたのもあって、特にそれを何度か詰問してしまい、二人は怒って行ってしまった。 ところが悪いことは重なるもので、次の日も僕は同じように、今度はプールの近くで何者かに水をかけられ、二日連続で体操着で帰る羽目になってしまった。 この時は周りに沢山の生徒がいて、それぞれに小指から赤い糸が出て、なにやら色んな方向に向かって伸びているので、流石にこれは間違いなく変なものが見えているな、と気づいたのである。 その後はどういう条件の時にこの糸は見えるのだろうか、という検証である。 まずはてっとり早く、家に帰って風呂に入り、母親を呼ぶが何も見えない。 お湯だったからダメなのだろうかと思い水にしても同じく何も見えない。 母親だからか、と思い風呂場の窓をあけて外を凝らすが、歩いている女子高生とかOLとかの指からは、何かが出ている様子もない。 朝も試したが結局何も見えない。 では、と思って学校で自主的に水を頭にかけて同じことをするが見えない。 勿論プール中にもあれこれやって見たが、結局何も見えない。 法則がわからなくてウロウロしていると、向こうから隣のクラスの加納とその取り巻き達がやってきた。 加納は少し喧嘩が強いだけで威張り散らしている、いけ好かない奴だった。 「よお、水も滴るいい男」 第一声が既に腹立たしかったが、とりあえず挨拶だけ返した。嫌なやつだが、敵に回すのも億劫だったからである。 「お前に水をかけた奴見つかったのか?金くれたら見つけてやってもいいぜ」 そう言ってケタケタと高笑いをする。 一瞬犯人はコイツかと思うが、そんな手の込んだことをするとは思えなかった。 ああ、みつからなかったら頼む、と言うような適当な相槌を打つが、ここでハタと気づいた。 そうだ。僕は水をかけられたのだ。水を自分でかけたのではない。かけられたのだ。 そう思うと急いで家に帰ると、母親に服のまま水をかけてもらい、何と母親の小指に赤い糸が。 そうである。僕の能力は『服を着た時に水をかけられたら発動する』能力だったのだ。 僕は母親の赤い糸が、父親のいるであろう近所の職場から反対の方向に糸が伸びていることを伝えずに、そのまま部屋に戻った。 そしてすぐにこの能力を活かすべく計画を決行する。 僕には好きな人がいる。 彼女の名前は市橋さん。女子テニス部で、僕の隣のクラスの女の子だ。 はにかんだような笑顔が可愛くて、僕は中学校の時からその笑顔が好きで、いつかデートをしたいと思っていた。 僕は、彼女の赤い糸が自分の赤い糸につながっているかを見たかった。 自身の赤い糸は見えないが、きっと市橋さんの糸が僕と繋がっていれば、見ることはできるだろう。 僕は一計を案じ、無理なく、水をかけられるべく、市橋さんを遊園地に誘った。 遊園地にはウォーター・シュートがある。カートに乗って高いところから落ちて水がバッシャーンのあれである。 思い込みは凄いもので、いつもは声をかけるのも躊躇するのに、迷わずに市橋さんに週末、デートの申し入れをし、彼女も僕の勢いに押されたのか、二つ返事だった。 そして僕たちは遊園地に行って、すぐにウォーターシュートに乗った。 僕たちはポンチョをかぶっていたが、僕はカートが暗い洞窟に入った時にフードを外した。 やがてカートは光の輪の向こうを目指し、坂の頂上に登る。白い羽で羽ばたくように、カートは一瞬浮いたかと思うと、すぐに幸せに向かって真っ逆さまに落ちていく。 僕の頭上を水が襲う。 しかし投げ出した市橋さんの手の小指から僕は目を離さなかった。 僕は正しくこの一瞬を見届けるように、市橋さんのしなやかな小指を凝視した。 そして市橋さんの小指には・・・ 突然ですが、私は超能力者です。 とは言え、日本のインチキ少年と違い、念写のように思ったものを写真に残すような、派手なことはできません。 超能力といっても、全てが派手で身になる能力というわけではないから。 勿論カメラに何かを写す能力もたいした超能力ではないが、私のはもっと地味な能力なのです。 私の能力は、赤い糸を見させる事ができる能力。そう。 世界に一人だけいるという、自分の運命の人と小指どうしで結ばれているあの赤い糸のことです。 私は自由にこの赤い糸を誰とでも結べる能力を使って、あることを計画しました。 ずっと好きだった隣のクラスの男の子に、この赤い糸を見せる能力を使って、私と相思相愛だと思わせる計画を。 彼がきっとその内私をデートに誘う。 行き先は、そうね遊園地のウォーター・フォールかしら。 そうでもしないとあの人は私をデートにも誘わない。 でもそこがまた可愛くて好きな所だけど。 ほら、彼が私の所に向かってくるわ。 彼好みの笑顔を見せなきゃ・・・
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