ピンク・フロイド「Astronomy Domine(天の支配)」

音は氷のように冷たい水のあたりで響きわたる

(2013年01月10日更新)

  • 点滅するストロボ。 まるで生き物のように呻く映像。 ブラックライトの光。 4チャンネルで彩られる、エコーや歪による前衛的なサウンド。 その神秘なる世界を背に、感覚と狂気に似たステージの真ん中で、フリンジのついたマントをなびかせる「マッドキャップ」シド・バレットの姿があった。 その世界は「春のさかりに送る宇宙時代の到来」を思わせていた。 1946年ロジャー・キース・バレットはイギリスの大学町ケンブリッジの中産階級の家に生まれる。 画家を目指し、ロンドンの芸術大学に進むが、同時に音楽活動にも強い関心を持ち、幼馴染のロジャー・ウォーターズらと共に、ピンクフロイドの母体となるアブダブスを結成する。 「ザ・ミル」という小さなパブで、ブルースをアレンジしたような、当時は珍しくもない音楽を演奏していた。 作詞・作曲・ギター・ヴォーカルと全てを一人でこなすシドが当時傾倒していた、宗教と絵画を音楽の中に取り入れ、ヒンドゥー教の絵画の影響から、「音楽を描く」と言うアプローチを試みる。 照明デザイナーのジョー・キャノンが、シドの曲に合わせライト・ショウを演出すると、シドのバンドはアンダーグラウンドでは少しづつ知名度を上げていく。 多くのミュージシャンを排出したロンドンは、この斬新な色彩の音楽によるショウに対し、熱狂的な支持をするものも現れ、やがて二人のブルースマンの名前から取ったバンド名「ピンク・フロイド」としてメジャーに登っていく。 1967年9月にはファーストアルバムとなる「The Piper At The Gates Of Dawn(夜明けの口笛吹き)」を発表すると、ただちに全英チャートにランクインし、彼らの音楽は「エレクトリック・ロック」として、その地位を築き始めた。 しかし、バンドの要であるシドは、徐々に精神を病んでいく。 シドは宗教による啓発を求めるが、叶わず、やがてドラッグに傾斜していく。 現世に対する極度の恐怖症から、慢性パラノイアと診断されると、実家に引き込んで誰とも合わない生活を始める。 アルバムが出て前後は、舞台にも立つが、狂気と覚醒を繰り返しながら、病状は悪化していく。 やがて1968年はじめに、シドが脱退して、幼友達のデイブ・ギルモアを加入し、ピンク・フロイドは生まれ変わる。 シドが始めた音楽と映像を誘導したサウンドは継承され、その計算尽くされたショウに観客は魅了される。 ピンク・フロイドの成功の影で、シドは自らのアプローチの前に精神を病み、やがてソロアルバムを出すが、精神の病は快方に向かうことなく、やがてステージからは完全に姿を消していく。 2006年に60歳で糖尿病の合併症によって死去する頃は、失明寸前にまでなっていた。 天の支配が及ばざる精神の闇の中で、彼は生涯を苦しんだが、その大きな才能は、バンドが継承し、音楽というキャンパスで描かれていった。 Lime and limpid green ライム色と透明な緑色 The sounds surrounds the icy waters underground 音は地面の下で氷のように冷たい水のあたりで響きわたる シドの作った音楽は、ライムや緑の色として描かれ、冷たく冷え切ったこの社会の中で、音楽として奏でられる。 しかし、共鳴する音は地面に眠ったまま、その響きを世に知らしめることはできない。 シドが、その大きな才能を、世に出し切ることができなかったように。
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