グランドファンクレイルロード「WE ARE AN AMERICAN BAND」

ロックに芸術性や技術が必要ないのであれば、使い捨ての音楽を作り続ければいい

(2012年06月29日更新)

  • 「君たちは世界中で最高にいかしたファンだよ」 ボーカルのマーク・ファーナーがそう言うと観衆は滝のような歓声を上げた。 ミシガン州フリントから現れたバンドは、この大きなスタジアムを埋め尽くす大観衆の前で、息を切らし、最高の演奏を行なった。 その様子をテリー・ナイトは満足そうに眺めている。 興行的に大成功を収めたバンドは、ゴールドアルバムを獲得し、正に全米の若者に熱狂的に受け入れられたが、評論家はバンドをあからさまに無視し続ける。 彼らの音楽の人気は実力に応じたものではない。 そう言っているようだった。 グランドファンクレールロードはテリー・ナイトという、DJ出身の男によって作られた。 テリーは20歳でデトロイドのDJになるが、その人気を利用しテリー・ナイト&ザ・パックというバンドを結成する。 後の初期グランドファンクのメンバーとなるドン・ブリュワーがドラマーで時々マーク・ファーナーがベースを弾いていた。 その後リーダー格のテリーが抜けてしまい、メンバーは停滞するが、その後メル・サッチャーをベースに迎え入れ、マークがギター兼ボーカルに据わると、名前を改名しニュー・イングランド地方を仕事を求め、さまよう日々が続く。 やがてテリーが今度はマネージャーとして戻ってくると、彼ら3人に、自分に従うことを条件に契約し、遂にグランドファンクレールロードが誕生する。 そして1969年にキャピタル・レコードと契約すると、アトランタの ポップフェスティバルに無料出演する。 そこで、バンドは若者に受け入れられる。 テリーの考えは単純だった。 若者が求めているものが、熟練のギターテクニックではなく、ヴォリュームやステージでのパワーであるということを知っていた彼は、バンドにシンプルなブルースの演奏を求める。 デビューアルバム「ON TIME」は、ギターとドラムを中心に、同じビートを刻み続け、時にそれは一次元的な音楽と揶揄されるが、スピード感や、ライブ感を持つその演奏は、余分な肉をそぎ落としたロック本来の良さが滲み出ていた。 テリーの戦略は、バンドに長いツアーを行わせ、ライブ中心で行うことで、彼らを無骨で、粗野なイメージを付けさせていく。 既にウッドストックの時代は過ぎ去っていた。 余分な電子音楽や、エフェクトは排除し、彼らをロックの申し子として売り出していく。 その結果グランドファンクは確実にイメージを定着させていった。 2枚目のアルバム「Grand Funk」の一曲目「Got This Thing on the Move」は、そのビート感が感じられる。 演奏は身も蓋もないが、下手である。 だが、マークのヴォーカルと、ギターとドラムが走るリズム感は、体全体にしびれわたる。 それはまるで常習性のある薬のようだ。 しかし、登った山はいつかはくだらなければならない。 ライブで培った彼らの人気は、最後どこに行き着くのかを模索し、その結果バンドは、バンドの最大の功労者とも言えるテリーを外すことで、新たなステージに立つことを選択する。 テリー決別後の1972年「不死鳥」は、セルフプロデュースのアルバムだったが、タイトルもダサいが結果も駄作となってしまう。 その後当時絶好調だったトッド・ラングレンを迎え、次のアルバム「We 're An American Band」は、そのタイトル曲があっと言う間に全米1位を獲得してしまう。 このアルバムはバンドとしてはポップの色濃いナンバーが多く、これまでのロックテイストにこだわった、シンプルな曲調とは異なり、軽い曲目と音の複雑さが感じられる。 ここにきてやっとグランドファンクは、無視し続けられていた音楽批評からも、好意的な意見も出始める。 その後もバンドはロックとポップの間の曲を発表し、ヒット曲を出していく。 彼らのバンドは商業的に成功したバンドであったのは間違いがない。 しかし、その音楽性の評価は人気に比べ低い。 それはバンドがどこか時代と迎合し続け、時代に迎合してきたからかもしれない。 彼らは言う。     We're an American band.    俺達はアメリカン・バンド     We're an American band.     俺達はアメリカン・バンド     We're coming to your town, we'll help you party it down.     俺たちは君の町に行って 浮かれ気分の手助けをするのさ     We're an American band.     俺達はアメリカン・バンド もしもロックに芸術性や技術が必要ないのであれば、使い捨ての音楽を作り続ければいい。 今その時がハイになればそれだけで十分なのかもしれない。 その潔さにこそ、彼らの音楽の良さがあり、同時にロックが存在するのかもしれない。
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