新井千裕 復活祭のためのレクイエム

気恥しさの正体は、全般に迫る青臭さに恥ずかしさを感じるのかもしれない

(2012年05月29日更新)

  • 故人であるが、相米慎二監督の映画「セーラー服と機関銃」を久しぶりに観て、主演の薬師丸ひろ子さんの台詞に相当驚いた。 何というか、ああ昔のアイドルの映画はこんな感じだったなあ、というノスタルジーに浸るというか、とにかく若さが爆発していて、大変ときめいた。 どこが?と聞かれると難しいのだが、わかりやすく言うと語尾に「〇〇だぞ」的な、セリフまわしで女の子が舌を出す感じである。(わかりにくいですか?) 通称ナッキー的な世界である。(もう分からなければいいです。雰囲気を感じてください) とにかくアイドルのイメージを崩さないように映画の展開が進むので、無駄に可愛らしさが散りばめていて、その違和感が相当にキッチュ(死語)な感じがする。 有名な場面だが、薬師丸ひろ子さん演じる女子高生のヤクザの組長(この設定が既にクラクラである)が、機関銃を撃って「カ・イ・カ・ン」と言うセリフは、映画を観たことがない人も知っているのではないだろうか。 このシーンの薬師丸ひろ子さんは、体も小柄で、セーラー服が似合うどこにでもいる感じの女の子だが、このセリフで一気に女性らしさと、あどけなさを最大限に引き出され、必然的に観ている僕の心をときめかせた。 と言いながら、この映画を観た小学生と高校生くらいの時は何も感じなかったのだが、これも年のせいなのだろうか。 最近、車に乗っていて見かける学校帰りの女子高生は、100%目が行く。 ああ、いやだいやだ、おっさん丸出しやなあと思いながら、100%目が行く。 別に、何かいやらしい目で見るとか、そういうのではないのだが、100%目が行く。(もういいですか?) 嫌な所の告白ついでに言うと、最近良く頭の中でダジャレが思い浮かぶ。 それはそれは「布団がふっとんだ」級の、最悪なダジャレなのだが、勝手に思いつくのだからしょうがない。 幸い、そのしょうもないダジャレが口から発せられることはないのだが、あまりにしょうもないので、一瞬死にたくなる。 などと思っていたら、テレビで綾小路きみまろさんが漫談をやっているのを観て、結構ダジャレのような物を言っているのだが、なかなかどうして面白いものも多い。 もともとダジャレは異口同音の言葉を巧みに使い、違う意味を示すことで笑いが起きる、言わば言葉のイントネーションと、イメージで笑いにする、高度な技術が必要とされる。 安易に使うと「誰でも思いつく」、「だからどうした」的な印象に取られてしまうので、倦厭されがちだが、本当に高度なものは十分に面白いものだ。 最近ブレイクしているスギちゃんを見ても、基本は唯の変なエピソードの羅列なのだが、演者自信の雰囲気とマッチして、面白みを出しているのだと分析できる。 他の誰が言っても面白いと感じられない唯一のネタでもあり、同時に飽きが来るのも早い。 それこそ秋くらいには飽きられるだろう。(すいません) 小説「復活祭のレクイエム」は新井千裕さんのセンスが、十分に感じられる秀作です。 今読んでもポップ音楽のようなテンポで、とても軽快に読むことができる。 10年もすれば風化する小説の中でも、何故かその古さ故の味のようなものを感じることができる。 寧ろ作者がコピーライターの出身らしく、一つ一つの言葉が強く、印象深く残り、あまり他の物語で感じることのない読後感がある小説である。 僕はこの小説を過去2回読んでいるのだが、最初に読んだ1990年(持っている本の発行が一刷りで、発行年もその年だったから、たぶん)も、最近読んだ時も同じ感想を持ったのを覚えている。 この本の魅力でもあると思うのだが、読後にノスタルジック感が残り、同時に気恥しさのようなものを感じるのだ。 それは、ガッツリとダジャレを聞いた時や、昔のアイドル映画全盛の現実的でないが可愛らしさが際立つ台詞回しを聞いた時の様な、「うわあやっちゃった感」に近いのだが、しかし、それは勿論嫌悪からくるものではない。 わかりやすさと語感の響きに注意が払われた結果、昔の時代に確かにあった、あの現実的でない言葉と、シンボル化された言葉がふわふわと浮いていて、その浮いた言葉を確かに受け止めていた自分が過去にあったことに、なんとも気恥しさを感じてしまうのだ。 この本は、時代の空気みたいなものを、内容からではなく、イメージとして感じることができる。 言葉が生きているものであることを、僕はこの小説を読むと感じる。 オカマのセーラちゃんなら、たぶんこの小説の事を「読んで」の一言で片付けてしまうのかもしれない。 過ぎ行く時代にたまには触れてみる。結果、その新しさに再度気づかされる。 人は変わるが、昔の時代の物語は、あの頃の自分と今の自分があまり大差がないということに気づかされ、少し難しい本や、物語、毎日の新聞の社説に会社での会議資料。 そんなものから少し離れて、昔の青臭さに触れてみるのもいいのではないだろうか。
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