シング

監督 ガース・ジェニングス
出演 マシュー・マコノヒー リース・ウィザースプーン
制作 2016年 アメリカ

好きなものに集中することができるという事が、一つの才能となり得る

(2017年09月07日更新)

  • タウンワークというアルバイト情報誌のテレビCMで、オーディション番組風のステージで芸人の女性がパフォーマンス披露後、拍手喝さいを浴びるシーンがある。 多分海外のオーディション番組のパロディーか何かだと思うのだが、日本ではこういった類の番組をあまり見かけなくなった。 昔はスター誕生みたいな素人参加番組から歌手が生まれたりしたものだが、素人が演じるものの浅はかさみたいなものが受けなくなったのか、テレビで登場する人たちは皆それらしい顔をしている。 素人らしい受け答えや、学芸会レベルのパフォーマンスでは誰も満足しないのか、それともそういう素人然とした粗削りなものを扱う名手がいなくなったのかは分からないが、とにかくプロと呼ばれる方しかテレビの世界にはいなくなったような気がする。 一方で、最近の人たちは昔と違ってサービスや情報が沢山ある中で、まさにカラオケやネット動画などを駆使し、昔ほど素人の人たちとプロの人たちとの境が無くなってきているのではないか?と感じるわけである。 特に歌手のレベルは相当に上がってきている。 町のカラオケ屋さんをのぞいてみると、格段にうまい人がいるのが分かる。 環境が人を育てるのか、カラオケの普及が人を進化させているのかもしれない。 これもよく思うのだが、例えば体操競技の世界なんかが分かりやすいと思うのだが、30年くらい前のオリンピックの映像なんかを見てみると、動きもスローモーで技もやや遅く感じられる。 単純に今の体操技術のほうが30年前よりも高度だからそう思うのは当たり前かもしれない。 しかし実際のところ、小学生の体力は30年前よりも下がってきているし、日本全体を見ても、昔の人のほうが元気だったように思う。 全体的な体育能力は減少しているのに、競技の世界では進化しているというのに違和感を感じるのは僕だけだろうか? 学生時代に体育会系の部活をしていた方なら経験していると思うのだが、やり方と訓練の仕方を憶えてそれを集中して繰り返せば、最初はできないと思っていたことはできてしまう。 30年前と今の体操選手の違いは、その年月の中で編み出された数多くのやり方を知っているからで、基本的な運動能力が高いというわけでは多分無い。 学習するという事こそ人間の進化の力だとは思うのだが、未来には、もっととんでもない技を人間は繰り出しているかもしれない。 サラリーマンをしているとよく聞く話なのだが、蚤の限界という話が合って、蚤は通常飛べる高さ以下の箱の中で暮らすと、その箱の高さ以上に飛ぶことができなくなる。 蚤が勝手に限界を決めてしまい、それに体が合わせてしまうという事みたいだが、しかし人間と違うのは、箱を取り払っても蚤は自分の限界以上の飛躍をしない。 限界を超えるには向上心が必要で、より上を目指したいという欲求こそが、人を飛躍させるのだと思うと、なんだか日々の生き方にも活力が出てくる気がする。 という事で今回の映画紹介は、岡村孝子さんがいたら「夢をあきらめないで」を歌ってしまいそうな映画「シング」である。 擬人化して動物が演じる世界では、多くの歌手になる夢を持った人がいて、一様にその夢に向かえない自分にふがいなさを感じている。 自分の才能に半信半疑であったり、生活に追われて忘れてしまっていたりしている。 ある日一枚のチラシが彼らの目に届く。 それは夢を叶えられるかもしれない、舞台オーディションだった。 今の世の中は器用で小賢くて、上手に立ち回ることが重視されているように感じる時がある。 不器用で今は未熟でもその世界に飛び込み、才能という不確かなものを信じて進んでいくことを、どこか怖れてしまっているように思う。 多分それは世の中にあまりに多くの才能があふれていることを、夢を持つ人々が知ってしまっていることにある。 競技の世界ではその才能に対し、訓練することで才能を伸ばすことができるのだが、エンターテイメントの世界では、評価する側の好みや主観や知識に依存するため、才能というものの不確かさを常に感じることになる。 しかし、才能というものがどんどん標準化する世の中で、純粋に好きなものに集中することができるという事が、一つの才能となり得ることを忘れてはならない。 純粋さは時に人に欠けた印象を与えるが、その欠けた所こそが人の魅力であり、見ている人に自分も頑張ろうという気持ちを思い起こさせるのである。 昔テレビで見かけた素人の人々が面白かったのは、才能のある集団の中に、素人が持つ凡庸さ故に不器用に立ち振る舞う姿が観る側の共感を呼んだのかもしれない。 今はプロと呼ぶことで違いのない素人との境界線を分けているように見えるが、その垣根はこれからもっと低くなっていくだろう。 目標に向かって進み続ける強い気持ちこそが、今後のプロを生むのかもしれない。 ということで僕も仕事を捨てて、明日から純粋だった子どもの頃に描いた夢である小説家にでもなろうかと思うが、それを言うと「夢をあきらめないで」どころか嫁に追い出されて生きることを諦めてしまいそうなので辞める。 つくづく若さがうらやましいものである。
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