さよなら渓谷

監督 大森立嗣
出演 出演:真木よう子 大西信満 大森南朋
制作 2013年日本

今あなたがいる場所は愛を得る場所であり、与える場所なのだろうか?

(2015年06月09日更新)

  • 最近このエッセイサイトの中で、軽読み物を書き始めた。 内容はオスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」と「科学」を融合させたもので、「科学」を絡めた物語を書きたいなあ、と思って書き始めたのだが、これがなかなかしんどい。 学生時代に科学は比較的得意だったので、気楽に書き始めたのだが、いかんせんブランクが長すぎて、科学の公式なんかもすんなりと入ってこないので、内容を要約するだけで精一杯になってしまっている。 一生懸命書いているので、お時間があって興味があれば、「知覚の扉」という本サイトのサイドバーから入れるので良かったらそちらも訪れてみてください。 宣伝はさておき、「サロメ」について書くのだが、詳細はご存知の方も多いだろうし、何より僕の下手くそな説明よりはネットで調べたほうが良いと思うので、今回はサロメに出てくるヘロデ王の話から始める。 ここに出てくるヘロデ王がめっぽう悪い。 どれくらい悪いかというと、現代だったら怪しいスクープ物ばかりの週刊誌に特集が組まれてしまいかねないほど悪い。 簡単にその悪事を書くと、実の兄である先王を殺し、その妻を自分のものにしてしまい、尚その娘まで我が物にしようとする、倫理観のかけらも無い男なのだが、古典に題材を得るとそんなに珍しい悪さではない。 それだけ女性の立場が弱く、男性とともに生きざるを得なかったからなのか、とにかく、女性の人権もへったくれも無い話である。 ヘロデ王は今の常識というものさしで測ると、かなりの野蛮人で、支配的である。 しかし滅ぼされた王に仕える妻とその子を引き取ったという点において、彼は悪だと言い切れない部分もある。 支配的ではあるにせよ彼なりの愛情が働かなければ、前王の妻を自分の妻にしないだろう。 そうしなければ妻も子も路頭に迷うのは目に見えていることで、ヘロデ王は二人を救ったとも言えなくもない。 歪んではいるがそこに愛はあるのである。 話は少し変わるのだが、先日タモリさんの番組を見ていたら、伝説のストリッパーとか言うアラフォーの女性が出ていたのだが、この人の人生がなかなかすさまじい。 母親もストリッパーで2度も子どもの彼女を置いて蒸発してしまったらしい。 これだけでも十分ロックな人生なのだが、2度目の蒸発で引き取り手のいなくなった彼女を拾ったのが、母親の勤め先のストリップ小屋のオーナーで彼女はその人に育てられる。 環境のせいか、成長するにつれ彼女もストリッパーになるのだが、ここで伝説となるような人気を得ることになる。 今は引退して同じストリップ劇場の後輩の女性とスナックをやっていて、テレビを見る限りでは年齢よりはまだまだお若い印象を受けた。 人生も色々だなあと思うのだが、勝手な意見を言えば、彼女の人生に愛はあったように感じ、彼女の母親には愛は無かったのではないかと思うわけである。 母親は愛情を得るために愛情を捨てて生きたように思え、彼女は多くの愛情に触れ、その愛を返すことで生きることができたように感じるからである。 彼女はストリッパーという道で、多分多くの人たちの愛情に支えられてきたのではないかと思う。 無論人の人生で、ただ無責任に言っているだけなのだが、母親よりは幾分か愛情に満ちていたのではないかと思うのである。 そんな愛情談義を前談にして、今回の映画紹介は「さよなら渓谷」という真木よう子さん主演の映画である。 とにかく愛情表現に肉感があって、当初この映画は情愛の映画と思い観ていた。 しかし物語が進むにつれて、この映画はもっと別の何かを持っていると感じ始めた。 最後までそれが何かが分からずにいたが、映画を観た後に冒頭のストリッパーの話を思い出す内に、何となくこの映画と繋がっていくのを感じた。 真木よう子さん演じる主人公の女性は若い頃レイプされる。 その事件が彼女の人生を大きく狂わせるのだが、やがて失意の中で自分を襲った男と過ごすようになる。 映画の中の真木よう子さんが、橋から川を見ながら言う。 「私たちは幸せになるために一緒にいるんじゃないのよ」 この言葉は愛というものがただ感情だけで成立するものではないことを物語っている。 愛の中には、慈愛や性愛、情愛と様々ある。 しかしどんな愛にせよ、愛を得ることで幸せを感じ、愛を与えることで幸せになることを期待する。 だから愛を得る場所に人は居ようとするのであって、愛をつなぎとめるために愛を与えようとするわけである。 ストリッパーの彼女は愛を与えてもらい、与えることができたのでストリッパーの道を選んだのかもしれない。 そして映画の中の女性は、愛を得ることも与えることも拒絶する。 それはつまり、その場所から去るということなのかもしれない。 今あなたがいる場所は愛を得る場所であり、与える場所なのだろうか? それがきっとあなたが幸せかどうかの一つの目安ではないだろうか?
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