ワイルド・アット・ハート

監督 デイヴィッド・リンチ
出演 ニコラス・ケイジ ローラ・ダーン
制作 1990年アメリカ

滅びゆく美学

(2015年03月04日更新)

  • 滅びゆく美学というものがある。 どこかにも書いたと思うが、最近軍艦島の今を収めた写真集を見たのだが、ノスタルジーが半端なくて、思わずため息をついてしまうほど良かった。 栄華を極めた昔があるから、滅び行く今に儚さと、特有の美しさが見えるのかもしれない。 人間に当てはめた時に、風景と違って老人は昔の栄光にすがりながら、何かグズグズと生を全うする姿は、大きなお世話ではあるが、何かみっともない感じがする。 人は長く生きれば生きるほど多くを語らず、威張らず、謙虚に生きることが重要ではないかと思うのは、過去には何の意味もないからではないかと考えるからである。 要は語る資格があるものは、今何を持っているかであって、それはおそらく物質的なものではなく、心の豊かさではないかと思うのである。 とは言え、その豊かさも、往々にして貧しさからはほとんどの場合は生まれないので、ある程度の成功経験がなければ難しいのだが、とにかく老いては子に従えではないが、いつまでもでしゃばる老人は、何だか惨めなものである。 そういった考えが根底にあるからか知らないが、僕は終わり方というものに対し、少し執着がある。 終わリ方一つで、事象の全てを理解することが出来るのだという考えがあって、例えば弔辞というものは、その人が生前どういう人柄だったのかがよくわかるので、不謹慎だがものすごく興味がある。 これもどこかに書いたが、赤塚不二夫さんの告別式で読んだタモリさんの弔辞が今も忘れられず、赤塚不二夫という天才性を、見出された天才が形にした一つの例で、その一片を切り取っただけで、故人が稀有な人間だったことを改めて認識させられる。 また人とは異なる特異な生き様というものも同じく美学を感じる。 若さゆえの破天荒さや、荒削りさで何となく泥臭く生きていく姿には、単純にしびれるし、夭折するミュージシャンや俳優は、やはりどこか格好良さがあって、特にその繊細さが羨ましくもあったりするのである。 社会で普通に働くということは、自分の中の何かを壊すことだと言うことを、最近身にしみて感じるからかもしれないが、自分というものを保ちながら生きていくことが本当に難しいと思うので、信念という、僕が随分昔に棚にしまってなくしてしまったものを、まざまざと見せつけられたりすると、得も言えぬ劣等感を感じてしまう。 終わり方とはどのように生きたかで決まり、生き方があるから終わり方が見えてくるので、僕は今のままでは十分に終わることはできないだろうなあ、と思うのである。 その何となく焦る思いがあって、他人の終わる姿に対し、大きく心が揺さぶられるのかもしれない。 終わりといえばもう一つ、引き際の良さというものがある。 今日(2015年2月です)新聞で読んだのだが、大リーグで活躍した黒田が、数十億の年俸を振って、古巣の広島に戻ってくるというニュースを見た。 彼は「最後の一球はカープで終わりたい」と言ったそうで、将来来るであろう終を見据えた、これはこれでなかなかさわやかな引き際である。 無論長く現役を続ける、キングカズや山本昌投手や、同い年のスキージャンプの葛西さんはそれで凄いことではあるが、自分の幕引きをどうするかを考えて損得なしに選択するということも、やはり素晴らしいと思うわけである。 ということで今回は終わりの美学と言えば、ということで「ワイルド・アット・ハート」である。 監督は鬼才デビッド・リンチで、後日ジェラシック・パークで見せた知性のある博士役を演じたローラ・ダーンが、ちょっとしたあばずれ役で主役を張るという、映画である。 この映画はなかなかトリッキーな終わりが盛り込まれていて、ウィリアム・デフォーの死に様や、映画の最後のLove me tenderの熱唱と、なかなかパンチが効いている。 正直何で最後のシーンでニコラス・ケイジが歌いだしたのかがあまりピンと来ないのだが、それでもこの映画の終わりは秀逸である。 映像に見られる刹那的なシーンの連続は、多分それぞれに意味なんかなくて、どう完結していくかに焦点をあてていった結果、ある意味ロマンティックで、且つそらぞらしいラストに着陸する。 実はこの映画は、とんでもない純愛映画で、恋愛というものは常に終を含んでいる。 それは、他人を愛するということの終わりで、彼女を生涯愛するということを誓う宣告に、歌が使われたのではないか、と思うのである。 そう考えると随分恥ずかしい映画なのだが、死という終だけでなく、愛の終りについても、未だにだらだらと、本仮屋ユイカさんが可愛いなどといっている自分が、少し恥ずかしく感じられる。 終わり方というのは大変難しいものである。
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