味園ユニバース

監督 山下敦弘
出演 渋谷すばる 二階堂ふみ
制作 2015年 日本

和田明アキ子さんの名曲「古い日記」

(2015年12月08日更新)

  • あるライブハウスで、友達のバンドが出演するというのでバイト仲間の友達と見に行ったことがある。 大学生の頃の話なので、かれこれ20年前のことだろうか。 友達はロカビリーバンドをやっていて、リーゼントがなかなか決まっていたので、演奏は正直いまいちでも、そこそこ格好良かった。 友達が出た後も、後で打ち上げに行こうということになっていたので、じゃあと最後までライブを見ていったのだが、その時の演者が強烈で、今もはっきりと覚えている。 彼はギターを一本もってマイクの前に立ち、ジャカジャカと間違いだらけのコードでギターを鳴らし始める。 当時の僕もギターはリスの食べかけのどんぐり程度かじっていたので、彼の下手さが良く分かったのだが、それでも彼は自分のギターの下手さや間違いなど気にもかけず、歌を歌う。 荒削りで、ギターと歌も合っていないのだが、それでもどこか彼の歌には響くものがあった(のかもしれない)。 パンクだなあと思いながら、フォークっぽい曲を奏でること二十分程度。 2曲くらい弾いたと記憶しているが、最後に彼が言う。 「最後になりましたが、僕のオリジナルを聞いてください」 その瞬間に他の客が、「今まで誰の曲やってん」と、至極全うな突込みを入れる。 僕もまったく同じ突込みを心の中でしていた。 このエピソードは別に演奏が下手なやつがライブで弾くなといっているわけではない。 単純に、世に出回る曲を弾いて誰もわからないのに、オリジナルを弾くという了見が面白い、という話をしたかっただけであって、僕はこの人を実はちょっとだけ尊敬をしている。 自分からお金を払って、多分自分でも分かっているであろう下手な演奏をすることが、どれだけハートの強さがいるか、という話である。 それだけ彼には歌いたい何かがあるということである。 その動機は、ミュージシャンを志す人ならば必ず持ち得ていなければならず、そして僕は持つことができなかったのでミュージシャンではないのであるが、純粋に無いものを持つ彼に尊敬の思いを抱いてしまうのである。 例えばパンクの代名詞、セックスピストルズは、ライブの音源を拾うとそれはもう酷いものである。 クラッシュもストラングラードもお世辞にも上手いとはいえない。 しかしその熱量は半端なく、格好が良い。 何かを訴えたいという気持ちが強いほど、その熱量は上がり、それが演奏を聴く側にも伝わってくる。 上手い下手は、実はあまり重要ではないということなのかもしれない。 僕も何かを吐き出したくてこうして何かを書いているが、僕には人を引く力が無いのだろう。 しかし、誰かに響けばいいなあ、と思いながらこうしていろんなことを書いている。 どこかでこんな言葉に感動や、共感や、感心でもよいのでもってもらえたら、何となくうれしいなあとは思うのである。 ややノスタルジックな感じになってきたので映画紹介に戻して、今回は味園ユニバースである。 タイトルの味園は千日前にある、あの味園ビルである。 大阪の人で多分ここを知らない人は少ないのではないかというくらい、カオスなビルで、この中にある大ホールに向けて日々練習をするバンドと、どうしようもないヤクザな男の、陳腐な言い回しだとヒューマンドラマである。 驚きは渋谷すばるさんの歌声である。 なかなかパンチが効いている。 全般物語は彼の歌を中心に流れる。 歌が好きな半端物が歌に救われる物語。 これも陳腐な言い回しである。 しかし、この映画にはどこか陳腐さが漂い、またそういったレトロな良さもあって、同時に大阪の町並みの毒々しさと妙にマッチしていて、まるで等身大の自分の若い頃の気持ちをダブらせてしまった。 劇中でキーとなる和田明アキ子さんの名曲「古い日記」。 歌の通り、世間から背を向けて、先を考えることもしない。 若さがそうさせるのか、歌しかないからそうせざるを得ないのか。 そんな不器用さが、どうも大阪という街は良く似合うなあと思うわけである。 多分僕がそう思うのは、僕自身が若者だった頃に大阪にいたからだろう。 あの頃は他人など信じてなくて自分だけだった。 あとはどうでも構わない。 誰しもある若い頃の気持ちが刹那に蘇り、その姿を映画に投影させていく。 そして映画の屋台骨となる渋谷すばるさんの歌声が、なかなかにすばらしい。 ジャニーズをやや舐めていました。 なかなか素敵な映画でした。
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