カポーティ

監督 ベネット・ミラー
出演 フィリップ・シーモア・ホフマン
制作 2006年アメリカ

物書きの本来の美徳は、罪人の処刑を見ながら「良いものを見た」と笑むくらいがちょうど良い

(2013年03月23日更新)

  • 原作が気に入って映画を観ると、「ええっ、だいぶちゃうなあ」と思う映画がある。 逆もまた然りで、映画が面白くて原作を読んで観ると、何かしんどいものもある。 こういうことが起きるのは尤もで、そもそも小説のおもしろさと映画のおもしろさで決定的に違うのは、小説では登場人物を自分なりに当てはめて、その描いた登場人物にイメージを投影できる点にあって、映画では断定的に各シーンの表情なり、表現なりが進むので、決定的な部分が違ったりすると、がっかりしたりする。 最近日本映画に多いパターンに、漫画の原作を映画にする、というものがあるのだが、これは考えてみればチャンチャラおかしい。 そもそも直観的な漫画をそのまま実写にするわけなので、演者に対して違和感はあって当たり前、となってしまう。 この前「GANTS」とか言う映画を観て、「すっげー。超面白いじゃん」とか思って、原作を借りてみると、比じゃないくらいに面白い。 これも当たり前である。 大抵の場合は原作のそれより、映画の方が質は悪くなるのだから、漫画に関して言えば原作を読んだほうが面白いに決まっているのである。 などということを賜っていると、友人に「でも、お色気漫画は違うよね」と言われて、「確かに」と変に納得してしまった。 確かにエロが絡むと、事情は変わる。 実写版の「ルパン三世」があれば、不二子ちゃんを沢尻エリカ様あたりに演じていただき、ボディーラインの分かるつなぎを着て、バイクで登場などされると聞いただけで、それだけで映画館に脚を運びたくなりそうである。 無論女性ファンのために、五右衛門あたりは上半身はだけた佐藤健さんあたりにやっていただければ丸く収まるのではないか。 まあ、しょうもない話はさておいて、話を戻して原作と映画の内容が相当に違う映画だが、もう二十年近く前に村上春樹さんの本の中で、トルーマン・カポーティが紹介されていて興味をもったので、古本屋で「ティファニーで朝食を」を買って読んだ。 その前に映画も観ていたので、内容は大分分かっていたのだが、小説を読むと決定的に違う部分に気づいた。 映画では、オードリー・ヘップバーンが主人公のホリー・ゴライトリーを演じていたのだが、透明感があり、同時に感じられた素朴さのようなものを彼女は持っていたのだが、小説では透明感というよりはあばずれ感を感じた。 配役ミスじゃないかと思うぐらいに、物語の肝となる主人公のイメージが違うのである。 無論映画そのものの面白さは十分だったのだが、正直小説とは別物じゃないか、という印象さえ持った。 映画は、俳優によってそのイメージは大きく変えられてしまう。 特に昔の映画には、物語よりその俳優のために作られているという映画が多くあったこともあり、イメージとしてそぐわない表現は削られてしまう事は往々にしてある。 特に、「ティファニー~」のように原作と演者のどちらも個性があったために、受け手である僕らは、強くそう感じてしまったのかもしれない。 そう考えれば唯一無比の優れた原作が持つ、幅の広さのようなものかもしれない。 映画「カポーティ」は「ティファニーで朝食を」を書いた、ベストセラー作家トルーマン・カポーティーが、ノンフィクションのさきがけである「冷血」を描くまでの物語である。 主演俳優はこの映画でアカデミーを受賞している。 多分カポーティ本人によく似ていたのだろう。 この映画には一種のヒロイズムの特徴が伺える。 映画を観ると、トルーマン・カポーティが、罪を犯した人間を追うことで、自ら疲弊していく姿を描き、ノンフィクションというひとつのジャンルを大成させた偉大な功績の前に、天才は全てを失ったかのように映画を観ていて感じられる。 しかし、現実はどうだろうか。 言葉を弄する人間が、その言葉に屈する姿や、現実のスゴさの前に膝まづくことは想像にはあるのだが、決して書くことへの罪悪感や、書く事しかできなかった自分の無力さなどで屈するものでは無いように思うのである。 多分物書きが屈する時は、書く事ができなくなった時で、それは他人に対してのものではなく、自分に対して向けられた落ち度のために彼らは筆を折るのではないだろうか。 物書きの本来の美徳は、罪人の処刑を見ながら「良いものを見た」と笑むくらいがちょうど良い。 そのほうがリアルな生を感じることができる。 少なくとも、人の死に直面して筆を折る作家が、優れた物語をかけるはずがない。 そういう意味ではこの映画は、どこかで「だいぶちゃうなあ」である。
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