きみに読む物語

監督 ニック・カサヴェテス
出演 ジェームズ・ガーナー ジーナ・ローランズ
制作 2004年アメリカ

自分にも愛する人がいることに感謝をしたくなります

(2012年10月24日更新)

  • 大学生の時にビデオ屋でバイトしていて、ホステス風のオネエちゃんが客としてやってきた。 大阪の地下鉄東三国駅の近くにあったビデオ屋で、繁華街からは少し離れていたので、あまりケバい感じの人は客として来なかったのだが、友達のバイト仲間が言うには常連さんらしい人だった。 そのオネエちゃんは店に入るなり少しほろ酔いで、僕を呼ぶと「恋愛映画はないか?」と尋ねてくる。 僕は当時そのビデオ屋にある映画はほとんど見ていたので、当時はまだ新作だった「忘れられない人」という映画を勧めた。 映画は今じゃあすっかりあばずれが似合う、マリサ・トメイがヒロインで、一方的にクリスチャン・スレーター演じる純粋な男の子に愛される話である。 簡単にあらすじを書くと、喫茶店で給仕をする普通の女の子に恋をした、孤児院で育った男の子が、彼女のために純粋な愛を送り、いずれ二人は愛し合う。 だが彼は重い心臓疾患を患っており、ヒロインのトメイは、彼に心臓移植を勧めるが、彼は自分の心臓を移植すると彼女への想いも消えてしまうとそれを拒否し、やがて27歳の誕生日になった日に彼は死んでしまう。 このような展開は、古くは「ある愛の詩」にもあったように、純粋な愛と死を描くことで、その儚さに涙し、その美しさに感動をするもので、他人を愛する思いに含まれる性愛や嫉妬などと言った濁った部分を取り除いた、蒸留された清らかさに世の女性たちは感動するものである。 しかし、このオネエちゃんは、この映画がお気に召さなかったようで、後日返しに来たビデオが途中でやめた形跡があり、その日は清水宏次朗を借りて帰っていった。 どちらかというと純愛より愛欲がお好きだったようである。 世の中の物語のおおよそは色恋が描かれているそうで、考えてみれば人間が出てくる物語なので当たり前と言えば当たり前である。 人間の興味ごとは、自分自身の事で、自分からあまりにも遠い物語に共感を得るのは難しい。 恋愛対象の理想は、自分をこよなく愛してくれる人であり、また同時に自分が心から愛せる人である。 しかし現実にそんな純愛は永久に続かないかまたは存在さえしないので、恋愛映画に唯一無二の色恋が求められるのだと思う。 だが、映画はあくまでも虚構なので、実際にその現状に自分を置きたいとは思わない。 寧ろそんな恋愛対象が現れたら、まずは疑うし、息が詰まりそうだし、大変そうなので拒絶するだろう。 例えがゲスいが、男性がAVで見る世界を、現実の女の子に行おうと思わないようのと同じ原理ではないだろうか。 AVという虚構の世界で、自分の内なる性を開放しているのであって、あくまでもそれは彼女への不満や、変態的なものでは決してないのである。 なので世の女性は男性のAV鑑賞を許してあげてください。 話が逸れたが、先に述べた「忘れられない人」は、清水宏次朗好きのオネエちゃんには受けなかったが、恋愛に幻想を描く女性には好かれる映画だとは思う。 この手の映画を観るといつも思うのだが、愛というものの最大値を描き、そこに享楽的な愉楽が潜んでいて、時にそれは相手をこの上なく思うことであったり、また障害があることでドラマチックに演出されていたりして、なんとなくだが恣意的であざとさを感じてしまう。 しかしそのあざとさが恋愛物語には必要で、ロミオとジュリエットも最後は死ぬから良いのであって、これが二人は末永く暮らしましたとさ、で終わると、現代にまで語り継がれる物語になっただろうかと考えると疑問である。 前置きが今回も長かったが、映画「きみに読む物語」は、純愛と死を描く恋愛映画において、若干の毛並みの違いを感じる。 それはこの映画の純愛が死によって終焉するのではないからである。 物語は所謂悲劇ではない。 彼は最愛の女性と添い遂げることができたし、その女性と最後に穏やかな死を迎えることもできている。 物語としての恋愛を生涯の形で描き、そして美しい姿のままその物語を閉める。 物語はとても広く、そして純粋さに満ちている。 本来恋愛というものは減点法で、出会って相手のことをよく知らない内が一番相手を好きでいられ、一緒に暮らすうちに相手の悪い部分も見え、やがて幻滅し別れを迎える。 しかし、この物語の純粋さは、愛し続ける行為そのものを素直に描いている点であろう。 愛を全うするということは、実は当然のことなのだが、その当たり前のことで生の喜びを得ることができるということを、改めて感じることができる映画である。 この映画を観ると、自分にも愛する人がいることに感謝をしたくなります。
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