海賊と呼ばれた男

監督 山崎貴
出演 岡田准一 吉岡秀隆 染谷将太
制作 2016年 日本

熱のあるリーダーというものに憧れを抱く

(2016年12月18日更新)

  • 宮崎駿の終作「風立ちぬ」で、ゼロ戦を作った堀越二郎について描かれていたことで、近代の技術者が脚光を浴び始めている。 鎌倉時代のよくわからない偉人について学ぶくらいなら、近代の市井の中にあった、素晴らしい人々に光を当てていくのは大変素晴らしいことだと個人的には思っている。 特に戦後の日本を立て直したのは、名もなき多くの日本人たちで、それこそ僕たちのおじいちゃんやおばあちゃんが、今の日本の礎を一生懸命築いてきたことを思い出させてくれ、改めてその感謝が生まれてくるというものである。 思い返せば僕がまだ幼かった頃の日本の商売人たちは、週に6日労働をスタンダードとし、大きな娯楽もせずただがむしゃらに働いた。 今の僕たちはせいぜい働いて13日連続くらいで、もちろんそれは悪いことではまったくと言ってないのだが、単純にそれだけ働くことができたのはどうしてなのかと思ったりもする。 僕なんかはお恥ずかしい話し、残業しただけでもう体が痛んで、心が折れそうになるのだが、昔の人たちは何を見返りに頑張って仕事をしていたのだろう。 僕がまだ20代の若手社員だった時に、富士通の池田敏雄さんについて触れる機会があった。 知らない人のために書くと、この人は富士通の社員で、FACOM という今でいうコンピューターの前身である、自動計算器を作った人である。 この人のエピソードで有名なのは、あるアイデアがひらめくと、ずっと考え込んでしまったり、会社に来ないなあと思っていたら、ふらりと会社に来ては結果を渡して、また会社に姿を見せなくなるという、今では社会人失格とも思える行動をする人だったようで、若い僕はこのエピソードに単純に憧れた。 今はそれなりの経験を得て、この行動がいかに難しいかを理解し、いかに自分が凡人であるかを知ることになったのだが、この人への憧れは今も僕の底辺にあって、今でも何かに夢中になることを切望している。 昔の人が何故多くの時間を仕事に費やしていたのかを考えると、単純に使命感や責任感もあったのだろうが、多分大きな志があったからだろうと思うのである。 日本があの戦争に負け、しかし戦争に向かっていった理由自体が理不尽なもので、その内なる怒りみたいなものが日本の原動力となり、二度とこんな思いはしたくないという思いから遮二無二働いたのだと言うが、僕はやや違う見方を持っている。 僕は当時の日本人自体が、世界とまだ戦争を続けていたのではないかと思うのである。 彼らは殺し合いの戦争では負けたが、商売の戦争でリベンジを果たそうと考え、とにかく勝つことに拘ったのだと思うのである。 池田が打ち込んだ計算機は、将来大きな事業の柱となることを確信していたからこそ、彼は外国に勝つため仕事に打ち込んだのだろうと思うし、堀越も世界に完たる戦闘機を作り世界に挑戦した。 その純粋な思いが、異常とも思える仕事への傾斜を生み、そうやって熱を持って費やした多くの時間があったからこそ、数ある困難をはねのけていったに違いないと思うのである。 今の僕たちが働く意味を考えると、真っ先に浮かぶのは家族の幸せとか、自分のスキルアップという、世界が半径数メートルの世界しかない。 それはそれで悪いことではないのだが、しかし本来働くという事の理想は、人のためであり、世のためでなければならない。 決して自分だけの安寧のためではないはずである。 そしてそういった自身を奮い立たせる、大きな使命感を持つことができた昔の日本にうらやましさを感じるのである。 今回の映画紹介は「海賊と呼ばれた男」である。 原作は言わずと知れた百田尚樹さんのベストセラーで、「永遠のゼロ」シリーズのキャストやスタッフが作った映画である。 戦争を超えて、日本の石油産業を死守するために、主人公は常に戦い続け、権力や利権に逆らうことで、彼らは海賊と呼ばれる。 反骨と貪欲さがバイタリティーの源であり、そこにはただの自尊心だけではない、国を憂う気持ちが見え隠れする。 彼は従業員を家族と呼び、その家族のために死地を超えていく。 油売りという手段でのし上がった彼は、作中で油の獲得に奔走し、最後には独自の方法で油の獲得を行う。 「店主の中で戦争は終わっていなかった」のセリフ通り、彼は油の販売を通し、敗戦を喫したアメリカに立ち向かっていく。 その気概に家族である従業員は粋に感じ、彼についていったのかもしれない。 無論実話に基づいたとはいえ、話は作者の意図する考えに左右されていることは間違いない。 また劇中の社員の忠誠心などは物語上の演出であることも理解している。 全員が全員日本のために働く会社なんかはちょっと不気味ですから。 しかし、どこかで映画の中の主人公のような熱のあるリーダーというものに憧れを抱く部分があり、大儀ある仕事をしてみたいものだという気持ちが、どうしても拭い去れない自分がいる。 これが日本人の魂だと言われれば、光栄ですがすがしい気持ちになるわけである。 多くの日本人にこの心が宿っていれば、日本はまだまだ大丈夫なのかもしれない。 とか言いながら、やっぱり昼間はごろごろしたいなあと思う自分もいたりする。 おやじがトム・クルーズだったら良かったんですけどね。
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