ガリヴァー旅行記

監督 ロブ・レターマン 原作:ジョナサン・スウィフト
出演 ジャック・ブラック  ジェイソン・シーゲル
制作 2011年アメリカ

童話ではなく文字通り旅行記

(2012年01月01日更新)

  • 名前は知っているけど中身は知らない本というのは結構あると思う。 最近ではそのような本にダーゲットを絞ってか、漫画で読む古典などがよく売れているようだ。 中にはそんな長くもないので読めばいいじゃんと思うのもあるのだが、「戦争と平和」とか「カラマーゾフの兄弟」とか、長編で読むのになかなか億劫なものは、興味を惹かれるは惹かれる。 昔トルストイの「復活」をカチューシャが出る前に読むのを諦めた僕としては、漫画化は賛成である。 しかし、漫画は、絵で書かれるため、小説よりも断定的で、漫画に起こす人によって内容が相当に曲げられるので、注意は必要だろう。 時に漫画は、その物語の最も肝になる部分でさえも、見えなくしてしまう恐れがある。 「ガリヴァー旅行記」という奇書は、漫画化したものではないが、実際に書かれたものと、皆が知る姿が相当離れた小説である。 ご存知の方も多いだろうが、ガリヴァー旅行記の原作は童話ではなく文字通り旅行記である。 正確に言うと船医であるガリヴァーが渡航した、4つの国を紹介する形で文章は綴られている。 勿論全てフィクションである。 フィクションとは言え、旅行記を冠しているため、中に出てくる国は、それなりに場所なども記されていて、初版本にはその国の所在を表す地図も掲載されていたようである。 無論物語が書かれた18世紀でも、この物語が真実ではないことくらい分かる雰囲気があったので、作者のスウィフトも、本当に旅行記としてだましてやろうという意図で物語を書いた訳ではなかったようだ。 それを裏付けるように、船が難破した地点から、漂着した国までの距離などを記載の通りに実際の地図や緯度に合わせると、なんだかよくわからない場所や、実際の島がある所にぶつかるようだ。 物語も荒唐無稽で、およそ旅行記と呼ぶにはあまりに突拍子がないので、一体目的はなんだろうと思うほどなのだが、今では考えられない不思議な島々での体験を、まるで本当にあるかのようにここまでしっかりと描くという視点が面白い。 特に大人になってから読むと、なんとも不気味で風刺めいた話だと、子供の頃に読んだ童話「ガリヴァー旅行記」とのギャップが少しばかり心地よく感じる。 物語のあらすじを簡単に書くと、ガリヴァーが乗り込んだ船が嵐で難破したり、海賊に会ったりで、4つの「小人国」「大人国」「空飛ぶ国」「馬の国」に漂着し、そこで不思議な体験をし、最後はイギリスに戻ると言う話である。 一番有名なのは、物語の第一部である「小人国」で、ガリヴァーが砂浜で小人たちに縛られている絵に覚えのある人も多いだろう。 ガリヴァーは二つの国「リリパット」と「ブレフスキュ」の二つの小人国で軍事的成果を上げ喜ばれるのだが、最後は両国に疎まれ国を出て故郷に戻っていく。 「リリパットアーミー」という劇団が中島らもさん主催で関西にあったが、名前の由来はたぶん「小人国」のリリパット国からとっているのだろう。(未確認) 他にも「空飛ぶ島ラピュータ」「ヤフー」など、インスピレーションを受けたと思われる後世の作品が有名にしたものもある。 ちなみに検索サイトの「ヤフー」は、英語の感嘆詞からとったようなので、ここで言う「ヤフー」とは関係は無いようです。 また、物語の中では風習や風刺が描かれ、また比喩的な表現も随所に盛り込まれている。 当時の状況などの解説と並行して読むと面白さが増すので、パソコンを開いて調べながら読むと良いのではないだろうか。 余談だが、「空飛ぶ国」の中で、日本経由でガリバーがイギリスで帰る際に「踏み絵」を踏まされかけるという歴史的な事実も垣間見ることができる。 映画のエッセイなのに、原作の話を大部分書いてしまったが、このガリバー旅行記はそもそも旅行記として世にでたフィクションの風刺物語で、時を経て子どもたちが読む童話として語られている点が面白い。 それだけ許容範囲が広く変化に耐えうる作品という事なのかもしれない。 映画では、ジャック・ブラックが物語をアレンジし、コメディ性が強くなっている。 物語は捉え方で幾重にも広がりを見せる。 この広がりはまさしく、ガリヴァー旅行記の良いところで「旅行記」にとどまらない、自由なアレンジを許す度量が、この物語にはある。 壮大なインスピレーションの塊は、時代を変えてもたくさんの人のインスピレーションを再度呼び起こす。 それだけ稀有な物語と言えるだろう。 知っていて読んでいない物語も、きっと読んでいるとものすごい発見があるかもしれない。 映画もまた同じで、映画で見た物語も原作を読んでみると大きな発見があるかもしれない。
■広告

にほんブログ村 映画ブログ 映画日記へ

DMMレンタルLinkボタン あらすじLink MovieWalker
 VivaMovie:か行へ  関連作品:リトルプリンス 星の王子さま