フード・インク

監督 ロバート・ケナー
出演 
制作 2008年アメリカ

人々の欲求を満たすため、悪いと分かって止めることができない

(2012年05月03日更新)

  • 僕はホラー映画が嫌いである。 理由は単純に怖いからである。 ホラー映画の大半は、暗がりで人を驚かせるような、陰険なところを感じるし、そもそも人が死ぬ映画をなんでわざわざ金を払って観ないといけないのか。 特にオバケが出てくるモノについては、出だしがオカルトなので、見ていても疑問が多すぎて映画に集中ができない。 何故霊魂が人を持ち上げるのか?どのような物理法則に基づいているのか? 何故井戸に落ちて死んだものが、テレビから出てくるのか? 何故携帯電話で呪いをかけることができるのか? そもそも呪いとはなんなのか? 疑問を挙げるとキリがない。 そんな中で、スタンリーキューブリックの「シャイニング」はなかなかの迫力だった。 ホテルに操られるだの、最後は絵の中に入ってしまうだの、突っ込みどころは満載だが、ホラー映画にある、とりあえず怖がらせればいいだろう、という安易な感情がなく、主演のジャック・ニコルソンの狂気ぶりも迫真もので、ハラハラ感があって面白い映画だったと記憶している。 まあ、好みもあるだろうが、やはり映画は出ている役者にも左右されるというところだろうか。 一方で、最近怖いなあと思うのはドキュメンタリー映画である。 事実は小説より奇なり、とはよく言うが、ドキュメンタリーは背筋が凍るものがある。 特に最近の流行りなのだろうか?食を扱ったものが大変に怖い。 昔、「食べてはいけない」という本がヒットしたが、それを遥かに凌ぐ、知らないことの恐怖を、食のドキュメンタリーでは気づかされる。 例えば「いのちのたべかた」では、淡々と食品の作られ方をやっているだけなのだが、工業型農業は効率を重んじるあまり、牛や鳥などを製品として扱い、またその製品を造る人間でさえも機械の一部であるかのように生産ラインに組み込まれている姿が見て取れる。 「キングコーン」では食品のあらゆるものがコーンから作ることができ、そのことが飽食と肥満、病気を生む現実を観ることができ、「ブルー・ゴールド」では水についての世界事情を見ることができ、水の専売を行うアメリカ企業が、人の生きる権利さえも金で扱うかのような現状を垣間見ることができる。 どの内容も現実に起きているという点で、本当に怖い映画である。 アメリカ型の企業は、タバコ会社の例でもそうだったが、基本的に買う側の事は考えていない。 基本的に売り手の論理で話が進み、同時に売り手は強大な権力を持っている。 日本では、極端な話、映画で描かれているような工業型農業は倫理的に受け入れられない。 少なくとも大半の日本人は、美意識として、他人を押しのけてまで、自分の利を追求していこうという人を蔑視する部分がある。 「フード・インク」の映画内でも、契約農場の男は、不衛生な鶏舎で、鶏が抗生剤で通常の2倍の49日間で成長し、通常より2倍程度むね肉が大きくなった状態で、市場に出してしまう工業型農業の手法に対し、儲かるからと平然と語る。 このへんが日本人の僕たちには受け入れにくい、人が人を支配するアングロサクソン的な考え方なのだろうが、企業として利潤を追うのは当然だし、生き物をただの道具と捉えるのはもっともだとは思う。 しかし、それが結果として、精肉の中に悪政の菌である出血性大腸菌O‐157の発生させたり、有害な多くのウィルスの発生を許してしまう。 企業が図らねばならないのは、議会にどれだけ業界のロビイストを増やすかではなくて、食の安全を担保する事である。 映画の中で男は言う。 「企業は結果についての責任は負わない」 企業はリスクを減らすために、出血性大腸菌を殺すアンモニアで除菌を行おうとする。 しかし大腸菌の発生は、狭い原野に何頭もの牛をとじこめ、餌は格安のコーン粉末を与え、その飼育環境は不衛生極まりない状況のせいであり、根本の原因を除去しようとは考えない。 牛が自らの糞尿の上に立つその映像は、ジャック・ニコルソンも真っ青の、迫力のある恐怖映像である。 そのそも、昔ながらの放牧で牛を飼い、草やクローバーを屠らせ、常に移動をすることで清潔になれば、少なくとも出血性大腸菌の発生はありえない。 安く手に入る食材を求める人々の欲求を満たすため、結果として安全を放棄し食の安全を脅かす。 そしてそれがまた新たな貧困を生む。 その後ろには強大な利潤と、人の何気ない欲望がぐるぐると渦巻いている。 悪いと分かって負の連鎖を断ち切ることはできない。 あふれる食の背景には、沢山の恐怖が顔を覗かせている。 そのことがよっぽどホラー映画より恐ろしい。
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