100円の恋

監督 武正晴
出演 安藤サクラ 新井浩文
制作 2014年 日本

圧巻は安藤サクラのニートっぷりと、ボクサーとして成長していく過程

(2015年08月05日更新)

  • 学生時代の話だが、夜バイトしていると、カップルが絡まれているのを見かけた。 正確には店から見ただけなので、見かけたというより、眺めていたのだが、二人ほどの強そうな輩に対し、カップルの男のほうは小柄で、でも腕に覚えがあるのか一歩も引かない。 何回かのやり取りの後に、痺れを切らした輩が男の胸倉を掴もうとした瞬間、なんと体の小さな男がソバットを決めて、一発で相手をのしてしまう。 驚いてしばらく見ていると、そのソバットの男はなんと中学校の頃の同窓生で、当時から喧嘩ばっかりしているやつだった。 しかし体が小柄だったので、僕程度でも当時は喧嘩に勝つこともできたのだが、5年くらいで恐ろしい成長である。 良く耳にする話で、空手とかの有段者でも、路上での喧嘩では思うように勝てないことがあるそうだ。 格闘家と言えど、ルールがある中での戦いなので、どうしてもルールの無い路上では、相手のトリッキーさに翻弄されるというところだろうか? そもそも路上の喧嘩は相手をどんな方法でも打ちのめせばよいのであって、ゴングも無ければフィールドも無限である。 格闘家も相手を打ち伸ばせばよいと言う目的は同じだが、ルールが存在するので、やっぱりストリートの喧嘩とは話が違うのは素人目でも何となく理解はできるものである。 そういわれてみれば昭和の時代にあったプロレスラーのアントニオ猪木と、ボクサーのモハメド・アリの異種格闘のエキシビジョンでも、アリ陣営は試合の条件を1冊の本ができるくらいに決めて望み、そのルールにがんじがらめにされた猪木は結構初番からリングに寝そべって寝技で責めようとしたのを思い出す。 世紀の凡戦と言われたこの戦いも、いわば格闘家が得体の知れないプロレスラーに対し見せた、勝つための防御策だったのかもしれない。 やや話は変わるが、僕はボクシングが好きで、今でも世界タイトル戦なんかは観るのだが、ボクシングの世界は比較的シンプルである。 3分の時間の中で相手を打ちのめせばよいのであって、ルールといってもそこまでうるさくは無い。 寧ろ戦わないスタイルなどに注意があるという、スポーツだと考えるとちょっと過酷な部類だと思うのだが、その競技スタイルのシンプルさ故に練習もシンプルである。 ボクシングは基礎的なスタイルとして、スタミナ作りと防御の練習があり、その後に効率よく相手に手数を加えることができるかという、技術的な習得を行う。 そのなかで例えば腕が長い場合や左フックの強さなど、自分の体格にあったスタイルを選択して、日々同じトレーニングを繰り返していく。 当然に練習量がものを言う世界となり、孤独に戦うストイックなイメージに繋がっていく。 最近では、練習方法も随分とフォーマット化されたので、エクササイズとしてもそのトレーニング方法が見直されているが、やはりボクシングの良さは、激しい練習の中で自分を高めていくその成長過程にあり、そこには路上の喧嘩にはないスポーツマンとしての精神性の高さを感じてしまう。 相手をただ倒せばよいという世界でも、多少のルールがあるからこそ、興奮だけではないものを得ることができるのかもしれない。 そこにスポーツとしての格闘競技の良さがある。 ということで今回はボクシング映画なのかは良く分からないが、「100円の恋」というじめっとした感じのある日本映画である。 安藤サクラ演じるニート女子は、親に実家から出るように言われて、一人暮らしを始める。 やがて100円ショップに勤め始めるが、その中でボクシングと出会う。 何をするのもダメな彼女は、男に浮気されたことをきっかけにボクシングにのめりこんでいく。 圧巻は安藤サクラのニートっぷりと、ボクサーとして成長していく過程にあるのだが、勝ち負けがはっきりとしているという、ボクシングの魅力を再認識させられる。 負け続けた女性が、ただ勝ちに拘るためにボクサーとして成長していくさまを見て、本能で戦う路上喧嘩では得られない、スポーツマンとしても神々しさを感じることができる。 それはひとえにルールが存在するからであって、ルールが無い世界はただの無法であり、ルールがあるからその競技者に尊敬の念を抱くことができるのである。 劇中で、ボクサーが試合後に相手の健闘をたたえて抱き合うシーンに、何をしているのかを尋ねるシーンがある。 「相手が憎くて戦っているわけではない」ことを聞いた主人公の女は、ボクシングに憧れを持つことになる。 その憧れこそが彼女の鬱屈とした日々を崩すきっかけとなる。 人間が持つ根源的な「勝ちたい」という欲求を満たすためにボクシングが存在することを一言で表しているシーンだと思うのだが、同時に戦いとは対極にいる負け続けの女が、その気持ちを奮い立たせる魅力がこのスポーツにある。 とにかくリアリティーがある映画に仕上がっている。(一部そんなやつおらんやろう、というシーンも無くはないが) ただ強いというだけが価値のあることではなく、強くなりたいと思い努力することにも価値があることを映画は思い出させてくれる。 勝ち負けだけではないのがスポーツのすばらしさだということかもしれない。
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