ウルフ・オブ・ウォールストリート

監督 マーティン・スコセッシ
出演 レオナルド・ディカプリオ ジョナ・ヒル
制作 2013年アメリカ

あれ?ウチもこうかも?と思ったら、少し笑えない部分はある

(2014年10月19日更新)

  • 古典落語に富士詣というものがある。 話しは、富士山に登ろうと決めた江戸っ子達だったが、口は達者だが足が言うことを聞かず、ああだこうだと休みを取りたがるという今につながるぐうたら男と話しである。 落語というものは昔から、口ばっかりの御仁が登場するものなのだが、楽しめるのはああだこうだに人間味があり、且つ共感できる部分があったりするのが落語の味になっていると思う。 口ばっかりのやつというのは実生活にいるとウザイが、見ているだけなら楽しいもので、そういった普遍的な愛すべき人間を名人がより面白く演じるからこそ、落語は長く人々に愛されてきたのかもしれない。 口ばっかりの話で思い出したのだが、昔テレビで観て笑ったのが、明石家さんまさんが遅刻した理由を「向かい風が強かったから」と言ったという話を聞いて、流石だなあと変な感心をした。 怒られているのに咄嗟にそんなことを言われたら、僕なんかは毒気を抜かれてしまいそうだ。 相手が怒っている時にまごまごしていたら、それこそ怒りに油を注ぎかねないし、こういうものは先制攻撃が有効なのだが、ユーモアは十分武器になると思う。 仕事で営業をやっていた時に良く思ったのが、相手はどういったキーワードに興味を示すのだろうということだ。 こちらに売りの気持ちがある時は、とにかく相手に好かれるように振る舞い、好印象を持たれるように受け答えをする。 当然にビジネスに支障のない程度のユーモアがあればベストで、相手から笑顔が引き出せれば、営業としてはまず合格と言えるかもしれない。 しかし、ただの話し上手の面白屋さんでは多分仕事はたくさんもらえない。 相手の本音が聞けなければ、売るも売らないもなく、そのためには相手に信用されなければならない。 そのためにも懐に入ることが大事なんだろうが、そのために相手が好むキーワードを探す必要がある。 例えば「頑張ります」とか「努力します」のような前向きな言葉は「適当にやります」よりかは当然良いが、印象としては特に残らない。 「全力で頑張ります」とか「社員一丸で努力します」など、少し言葉を足すだけで、より信頼度が高くなったりする。 僕が昔購買部署にいて、出入り業者の方々と話をする機会が多かった時に、注文した品の納期が注文先だけのせいではない理由で遅れた時に「我々もすべてを優先して行いますので、まずはあなたも〇〇してください」と言われた時に、ミスはミスとして後で謝罪をするので、まずは今の困った現状を何とかしましょうという意識が感じられてこの人を信頼したことがある。 人それぞれそキーワードは違うのとは思うのだが、それをうまく探し出すのが営業の仕事の面白さでもある気はする。 かく言う僕も営業経験が5年強あり、それなりに人へモノを売りこんだ経験がある。 特に営業スタイルが厳しい業界だったので、新人の頃は大変しんどい毎日だったのだが、その時に出会った営業マンの大半は、話術よりかは、なんというか勢いのある人が多かったように思う。 要は中身はあまりなさそうだが、元気で、物怖じしない人が多かったようで、どちらかというと破天荒な人間が多かった。 なのでそういう人たちからいただいたアドバイスも、「とにかく困ったら笑っとけ」とか、「そうですね」と「だから」をつけて話せば売れる、とかもう無茶苦茶だった。 とは言え、当時を振り返ってみても、僕も口ばっかりで勢いだけだったなあ、なんてことを思う。 それが若い時代の特権でもあり、営業という仕事の本質なのかもしれないが、よくよく考えると、その営業職に携わっている人が世の中で一番多いわけなので、極論を言ってしまえば、大部分の人間は、勢いだけの人間ということなのかもしれない。 落語の演目に、口だけ男がよく登場するのも、勢い人間のおかしさもあろうが、言い換えればそれも人間の特徴と言えるのかもしれない。 ということで今回は「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の紹介だが、お世辞にも上品な映画ではない。 内容を簡単に言うと、詐欺まがいの証券を販売して利益を上げて行く成り上がりの映画なのだが、アメリカってマジか?と思ってしまうくらい、証券屋がアホである。 確かにアメリカの証券マンの破天荒さはよく映画にもなっているので事実の部分も多いのだろうが、この映画はひどい。 会社で女子社員とエッチはするは、ラりりながら証券取引のアポ営業はするわ、極めつけは「証券マンは毎日自慰行為をしろ」というとんでもないアドバイスまで出てくる。 「困ったら笑っとけ」が可愛く感じられてしまう。 僕も大抵利益中心主義の会社にいたが、こんなアドバイスは聞いたことがないし、やはりアホの規模もアメリカである。 しかし、この映画に描かれる、一種享楽的な部分の多くは実は真実なのかもしれない。 ライブドア事件の時も、社長が捕まる前までは、社員全員時代の寵児のように振舞って、何かで見たパーティーの映像なんかも、会社というより大学の学園祭の打ち上げのようだった。 日本での破天荒はこの程度なのかもしれないが、享楽的に利益を追い求める会社には、こういった突き進むエネルギーが重要で、彼らが進んだ道に残るのは多くの離職者と、ぺんぺん草も生えない荒野なのかもしれない。 この映画には昨年よく聞かれた「ブラック企業」の極めつけみたいな要素が散りばめられている。 遠い国の、自分と接するところのない会社での出来事として見れれば、楽しい映画だとは思うが、あれ?ウチもこうかも?と思ったら、少し笑えない部分はある。
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