オーケストラ!

監督 ラデュ・ミヘイレアニュ
出演 アレクセイ・グシュコブ メラニー・ロラン
制作 2008年アメリカ

政治の圧力の前に音楽を奪われ 音楽と共に死んでいく

(2012年05月20日更新)

  • 高校生の時に友達に勧められてエレキギターを購入した。 2万円くらいのストラトで、ディープパープルのギタリスト、リッチー・ブラックモアと同じ色のギターだった。 友達はバンドを組みたかったらしく、毎日のようにギターの練習に誘われはしたのだが、僕は何かと理由を付けて断るようにしていた。 何となく押し付けがましく感じたからである。 僕は学生時代は、どちらかというと文科系の人間ではあったが、サッカーや野球を若年時代にやっていたこともあってか、音楽を演奏するという行為自体に慣れていなくて、また格好悪くも感じていた。 世の中はバンドブームと言われる時代で、それこそ猫も杓子も演奏をしていたにもかかわらず、僕は何となくその流れを冷ややかに見ていた。 でも音楽は本当に好きで、自分の好きな音楽をまめに編集しては、カセットテープに録音して、毎日のようにソニーのウォークマンで聞いていた。 それでもたまには友達の家に顔を出して、何度か一緒に練習はしたのだが、結局バンドを組まなかった。 理由は練習曲の「グロリア」という曲で、下手だからソロパートをやらせてもらえなかったからと言っていたが、本当の理由は、バンドで演奏することが恥ずかしかったからである。 人様の前で話すのも嫌なのに、演奏などはもってのほかだったのだ。 だけど僕は以降ギターを捨てることなく、思い出しては練習をし、しばらくしたら飽きてを繰り返してきた。 たぶん音楽への憧れは持っていたのだろう。 すっかり40前のおっさんになって、さすがにギターでモテたいという気持ちはないのだが、変な言い方だが、最近になって、やっとギターを弾くことに慣れてきた。 特に最近買ったエレアコで弾き語り何かをすると、気分が良い時がある。 いつか自身で曲を作って、深夜の終電終わりの駅で歌でも歌いたいなあ、なんてことも思うのだが、勇気が出るのは今世紀中には無理そうである。 よく音楽をやる人同士は、たとえ初対面でも、その演奏を通じて会話をすることがよくあるそうだ。 60年代にサイケブームで登場した「クリーム」というエリッククラプトンも参加したバンドなんかは、バンドの仲は悪いのだが、演奏をすると互いが研ぎ澄まされた感覚で演奏をし、その熱故に、逆にソロパートが長すぎて、ライブ音源などは、いつ曲が終わるのかと思ったりする。 たぶんギターの演奏の中で、喧嘩をしていたのかもしれない。 しかし、当然ながら演奏の高みに至るには、努力と才能が必要なのは言うまでもない。 バンドはその才能を持ち寄って、ひとつの奇跡を作り上げる。 その時に得られる高揚感こそが、人間が音楽を演奏する理由なのかもしれない。 映画「オーケストラ!」は、まさしくこの才能によって、政治によって止められた時間を再び取り戻す、元天才指揮者の物語である。 チャイコフスキーに魅入られたソリストは、政治の圧力の前に音楽を奪われ、音楽と共に死んでいく。 天才指揮者はその事を悔い、後悔の中で必死に大舞台でのオーケストラでの演奏を成功させようと奔走する。 映画はクライマックスとなる、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の演奏までをコミカルに描き、ラストのパリの大舞台での演奏では、音楽の力で失われた時間と音楽を取り戻す。 圧巻は主演女優のメラニー・ロランのバイオリンのソロ演奏で、美しさも兼ね備えたこの女優を、誰もが羨望の眼差しで見ていたことだろう。 この映画は矛盾点も多く、見ていて違和感を覚える部分が多分にある。 いささかご都合主義的な部分も見え隠れする。 しかし、ラストのオーケストラの演奏は、美しく、力があり、ぐっと引き込まれてしまう。 映画を観て音楽の力を思い知らされた。
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