慇懃無礼  イルカ

昔神童今ただの人

(2013年9月1日更新)

  • 子供の頃に読んだ本で、イルカはとても頭がいいので、人類が滅んだあとの地球を支配するのはイルカだと書いてあったのを記憶している。 確かに、水族館なんかでイルカショーを見ると、ポテンシャルの高さに驚かされるのだが、あの愛らしい動物が地球を支配するというのは些か無理がある気がしないでもない。 この根拠となっているのは、恐らくイルカの知能が高いのではないかという推測に依るところだと思うのだが、実際にイルカは知能が高いのだろうか。 アメリカの生物学の学者が調べたところ、バンドウイルカは鏡に映った自分を認識する能力があるそうで、他と自分の識別を見た目から判断することができているという。 これが本当であれば、イルカは個を持っていると言えなくもなく、また認識することから考える能力も有する可能性が出てくる。 また、イルカの知性を語る上で、イルカ同士のコミュニケーション能力の高さを上げるものが多くある。 これも一般的にイルカは音声をコミュニケーションに用いていることが知られている。 潜水艦で航行する時に、このイルカや鯨の発する音を拾うことはよくあることで、音を発することで自分の位置や、仲間への知らせを行っているのは生物学的にほぼ間違いないようで、そういった意味では、確かにコミュニケーションとして、「声」を使ってはいるようだ。 こういった事例の多くが、イルカの知能の高さを裏付ける論拠になっていると思うのだが、しかし、人間になつく動物が知性が高いのであれば、犬も十分すぎるほどなつくし、声でコミュニケーションをとるのは、鳥や大型獣でもそんなに珍しいことではない。 イルカの脳の大きさを上げ、脳が大きいから猿以上の知能を持つという、どうやって調べたんだろうということを主張する人もいるようだが、それが正しければ、体(脳)の大きさと知能は比例することになり、日本人は白人と比べ知能が劣るという事になり疑問を持ってしまう。 同時にイルカは人間にとってとても好意的な動物だと知られている。 ネイチャー系の番組何かでも、野生のイルカと戯れるダイバーの映像なんかをよく見かける。 そういった映像はとても平和的なのだが、逆にイルカが敵に襲われる、または敵を捕食するような、野生丸出しなシーンとかを見ることは少ない。 自然界の理論から行けば、程々に敵に襲われ、襲っているはずだが、あまり映像ではお見かけしない。 こういった映像が流れないのは、クジラ愛護団体的な人々からのクレームに対し、面倒だからと作らないのか、または、作ったとしても、確かにイルカの愛らしい姿に対し、残虐な映像は似つかわしく感じられるので流さないのではないかと深読みしてしまう。 こう言った人間のイルカ愛からくる、偏った情報が、どこかイルカの姿を曲げてしまっているのではないだろうか。 世の中には見た目とはずいぶん違うことがよくあるもことなので、あらいぐまラスカルのイメージで、何となく人懐っこい印象のアライグマも、実は獰猛だったりするので、ひょっとしたら知らないだけで、イルカもかなりエグい動物かもしれない。 人間にとって良い動物かどうかも議論の余地は有り、アイルランドなどではイルカに人が襲われる何てニュースはあり、身近な水族館のイルカでさえも、ジャレて飼育員を水の中に引っ張り込むなんてこともあるそうだ。 そもそも、陸上にいる動物全てを差し置いて、イルカが人間にとって変わるシナリオ自体が、何となく不思議な感じがする。 これも推測ではあるが、 「人間によくなつく」→「人間は危険ではないと知っている」→「イルカはいいやつ」 または
    「人間によくなつく」→「人間が万物の長であることを知っている」→「イルカは頭がいい」 的な考えがあって、結局は人間になびく動物だからきっと頭が良いのだろうという、悪代官に使える商人は頭が良いと言っているようにしか聞こえない。 イルカは基本的に犬や猫のように、人間から見たイメージは良い。 同じ哺乳類なので、親近感もあるのかもしれない。 例えば、イルカは溺れた子供を押して、浜辺まで連れて行ったというような話や、イルカに施すと、恩を感じて、お返しをする、といったほぼ思い込みだけで成立したような話が多くある。 イメージというものは凄いもので、こう言ったイメージが根底にあるからか、南国の国では、鯨やイルカは神の使いとして崇められているところもあるそうだ。 神秘的なイルカなので女性が乗ってはいけないという、21世紀の現代にまだこんな風習がと驚かされるルールがあったりして、土俵の女人禁制のような違和感を感じてしまう。 何かでも書いたが、日本人が鯨を食用に捕獲することについて、「同じ哺乳類を食べるなんて信じられない」や、「あんなに知性の高い動物を食べる何てどうかしているぜ」的な事を言う人があるようだが、牛や豚も哺乳類だし、知性の高い動物の定義は知らないが、人間に食されるものの脳の質について議論すること自体、かなりナンセンスな気はする。 多分だが、牛や豚にもそれなりに知能はあって、イルカと同じように殺されて食べられるのは嫌なはずで、それはイルカに限らずあらゆる動物の殺生はやめるべき、という議論と同じはずなのである。 話が少し逸れたが、結論として、イルカが人間の滅びた世界を治めることはないし、多分イルカが陸に上がることも今後はないだろう。 イルカの知能の高さを唱えることは、どことなく自分の子どもは特別な子供と思うような「かわいがり」的な印象があって過剰評価しているように感じてしまう。 そろそろ自分の愛する子どもの本当の能力に気づく時なのかもしれない。
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