時計  インポテンス

短編;響子とEDな彼

(2012年3月24日更新)

  • 桜庭響子は焦っていた。 明後日の日曜に30歳の誕生日を迎えるからだ。 とは言え焦っているのは、彼氏がいないので誰も祝ってくれないとか、会社の同僚が結婚する中、自分だけが行き遅れているとか、そういう俗的なことが理由ではない。 実際に響子には付き合って3年になる同じ年齢の商業デザイナーの彼氏もいるし、誕生日の日も彼が家に来る予定になっている。 彼氏とは関係も良好で、寧ろ何故結婚しないのか、周りが気にかけるほど仲も良い。 響子が焦っていたのは、もっと別の理由で、それは彼の性癖についてだった。 彼は所謂セーラー服マニアで、部屋でいいムードになって、いざそういう雰囲気になっても、響子がセーラー服を着ないと、絶対に彼のものはエレクトしないのだ。 付き合った当初は、彼もそれを隠していたようで、なかなかそういう雰囲気になっても一線を超えようとしないため、響子が彼を詰問すると、彼はおそるおそる自分がインポテンスで、セーラー服を着た女の子しかエレクトしない、と告白され、真剣に別れを覚悟した。 しかし、大好きな彼のためならばと、学生時代のお古を実家から取り寄せ、事が起こりそうな雰囲気になると、すぐに着替えて彼をその気にさせる、というような事をやっていたのだが、最近になって、彼がどうもエレクトするのに時間がかかるようになってきた。 そこでこっそりと彼の家を掃除に行くふりをして、部屋をいろいろ見ていると、衣装棚のスペースに何故か新品のピンクのランドセルが置かれている。 ついでに注意深く部屋の本棚を見ると、趣味の車の本に紛れて、8ページほどのリーフレットが束で差し込まれており、おそるおそる中身を見ると、ランドセルを背負った女の子が、可愛らしい笑顔で写っているもので、どうやらランドセルの商品リーフレットらしい。 色んなメーカーのものがあり、何度もめくったのだろうか、リーフレットの端が少しよれている。 何故親戚にこどももいない彼の家に、女の子用のランドセルと大量のリーフレットが、と思ったのだが、即座に響子は気づいてしまう。 そう、彼の性癖がセーラー服から、黄色い通学帽を被った、ランドセルの女の子にしか欲情しないまでになってしまったのである。 響子はそれを知るとどうしていいのか分からず、部屋を出ていってしまった。 それからの数日間は悩みに悩んだ。 大好きな彼のために、ピンクのランドセルを背負って幼児プレイをするか、しかし自分は次の誕生日で30歳になるというのに、そんな事をしていいのだろうか。これを機会に彼の性癖を直すよう、大人の女性としてのテクニックを身に付け、彼をロリータの世界から引き戻そうかと、杉本彩の主演ビデオなんかを観たりもした。 しかし結論も出ないまま、とうとう誕生日を迎えてしまった。 響子は彼が今日部屋に来る時に、あのランドセルを持ってくるのではないかとハラハラしていた。 しかし、まだ覚悟は出来ていないのだが、響子はもし彼が本当にランドセルでしか欲情しないのであれば、それはそれで仕方がない、受け入れてランドセルを背負って、ブルマでもなんでも穿いてやろうという気になっていた。 たかがランドセルではないか。 それで彼が喜ぶのなら、という気持ちになっていた。 やがてチャイムが鳴る。 響子はおそるおそる玄関の扉を開け、彼を迎え入れると、彼の手には小さな花束があった。 ランドセルは持っていなかった。 響子は彼に聞く。 「あれ?ランドセルは?」 「ランドセル?」 彼は素っ頓狂な声で答えた。 「私。あなたのお部屋で見たの。ピンクのランドセル」 そうすると彼はしばらく考え込んで、ああ、と小さく唸る。 「今仕事でランドセルの商品カタログのデザインをしているんだよ。今度大型ショッピングセンターの催しがあってね。 そこで使うランドセルの見本を借りてきてたんだけど。」 響子は淡々と話す彼の言葉に一気に恥ずかしくなって、顔が紅潮していった。 「それが、どうかしたの?」 そういった彼の言葉を聞かず、スリッパをパタパタ言わせて、部屋に入ってしまった。 その日の夜、彼のモノは立派にエレクトして、響子は十分に幸せを感じることができた。 しかし、彼のものはいつもどおりエレクトに時間がかかったが、彼女が早とちりで穿いていた、 子どもっぽいくまさん柄のパンツを見たときに、すぐにエレクトしたのを、響子は見逃さなかった。
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