憲法9条を変えると日本は戦争をするのか?

日本人の死生観

(2015年05月30日更新)

  • 鎌倉時代に仏教図として書かれたものの中に、九相図というものがある。 名前の通りに9つの段階の人間の死体を描いたもので、小野小町や 嵯峨天皇の后、檀林皇后がモデルになっている。 内容は細かくは書かないが、最初は死んで間もないフレッシュな死体から、最後は骨も焼かれ灰になるまでを描いていて、なかなか悪趣味な絵ではある。 そもそも何でこんなものを書いたのかというと、修行僧が悟りを開く際に、現世の肉体を不浄なもの、または無常なものと知らしめるための修行の一つとして、取り入れられたそうだ。 なので小野小町のような美人が題材として取り上げられたのかもしれない。 だとしたらやっぱり相当悪趣味ではあるが。 ちなみに死体がゆっくりと滅んでいく姿を眺めるのは、九相観と言うそうだ。 このことを養老孟司さんの本で知ったのだが、この修行自体に日本人の死生観というものが垣間見れる。 日本人は、輪廻転生、つまり現世は修行の場で悟りを開くための苦行で、幾度も人生を繰り返し、魂はまた次の世代に引き継がれていくという仏教に根ざした死生観を持っている。 多分だが、この考えが日本に武士道を生み、修身を生んだのだと思う。 要は生の理由をきちんと見出し、肉体や金や名誉のような俗的なものではなく、精神の高潔さのために生を全うさせる、潔さのようなものを感じる。 しかし、過去の日本人はこのような死生観を持っていたのかもしれないが、僕たちのような戦後生まれの人間はどうかというと、現世が楽しくなければ損という考えがあって、物質欲はとどまるところを知らない。 生きる意味を考えることも少ないし、そもそも死生観って何?という感じではある。 平和というものはあって当たり前で、世界は一つで、人類はみな兄弟である。 隣国の脅威と言われても、理屈は分かっても危機感は感じないものである。 例えば死というものを考える時にも、そもそも死というものが現代の社会では遠ざけられていて、食事として得る肉は、スーパーでパック売りされて、それが生き物だったことを想像しにくい現実があって、核家族化が進み、家族が死の床に伏す瞬間も見ることが無くなり、人の死でさえ滅多に見られなくなってしまった。 最近では喧嘩やいさかいごともあまり見なくなり、一方で個人主義とやらで自己主張が激しくなっていくことで、人と交わらない人も増えてきている。 現代の日本人は、戦前の日本人と違い、随分と異なっている。 個人主義で物質至上主義の民族が、戦前に日本が行ったような戦争に進むかといえば、多分進まない。 社会の中の個を考えず、死というものの本質が分からない民族が、あえてそれらに近づくような行動をするとはとても思えないのである。 よしんば戦争に向かうとしても、それは国民ではなく国が行うことであって、あの戦争のように「祖国のため」や、「故郷のため」に死を賭して戦うことも最早あるまい。 無論、現代の戦争は完全にコンピューターウォー化していることや、政治的な配慮から憲法を改正したところで戦争に進むことはないという正論もあり、9条があったから日本が戦争をしなかったという論調についての反証も山のようにあるのだが、日本人のアイデンティティがここまで変化している中で、憲法改正があの戦争につながるという話に結びつけて考えるのは、あまりにも歴史を知らず、今の日本人が見えていないと言わざるを得ない。 むしろ危険だと感じなければいけないのは、日本人が死や、争いと言うものを遠ざけている現状にあって、死を知らないということは、人の本質に目を向けていないということにもなって、権威や財や地位などに固執する、さもしい民族に成りかねないように思うわけである。 無論昔の武士のように、金は無くとも高楊枝は勘弁だが、人の死を禁忌とすることは、人を愛することさえも遠ざけている気がしてしまう。 限りあるものだから人は最善の生き方をするのであって、死を身近に感じずに生きることは、人の成長を止めるものになりかねない。 憲法9条というものは確かに、最初から白旗を上げて人類の愛に期待するという意味において、興味深いチャレンジである。 しかし、9条があったから日本が戦争に巻き込まれ無かったのも、9条があれば平和が保てるわけでは到底ない。 それは私はこんなにあの人を好きなんだから、あの人も私を好きに決まっている、と思う乙女心のようなもので、あの人はただただ女性を抱きたいだけで近づくかも知れないし、財産を巻き上げるために愛をささやくのかもしれない。 そんな危険な賭けのようなものに全てを預けることはできるはずが無い。 僕はこの話をテレビの討論番組何かで見ると、決まってこの言葉を思い出す。 「世界に愛は期待できないけれど、世界に愛を与えることはできる」 残念だがそういうことである。
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