ジャンゴ
監督 クエンティン・タランティーノ
出演 レオナルド・ディカプリオ ジェイミー・フォックス クリストフ・ヴァルツ
制作 2012年アメリカ
昔ヤクザ物の映画を観て、劇場前で肩に風を切って歩く姿を思い出す
(2013年09月08日更新)
- 最近youtubeで昔の音楽を聴くのにはまっている。 昔といっても、戦時中の隣組の歌を聞いて、ドリフの曲と一緒だ!とか言って喜んでいるのではなく、僕の生まれた1970年代の昭和歌謡などを聞いて、ああええなあ、何て感慨にふけっている。 昭和に人気を博したフォークシンガーで、吉田拓郎さんがいる。 知っている人は別にいいのだが、知らない人のために書くと、フォークソング全盛に下駄を履いて「僕の髪が肩まで伸びて~♪」みたいな歌を無骨な歌い回しで歌う人です。 今で言うとエレカシとかですかね? あんまり愛だ恋だの言わないところが男らしくて、当時は相当に人気があったようだ。 僕は襟裳岬が好きで、いろんな人が歌っているので聴き比べをして、やっぱり森進一さんのが一番グッとくるなあ何て思いながら、一方で作曲の吉田拓郎さんの感じも良いなあなんてことを言いながら、ここ数日を楽しんでいる。 文化は一周回ってまた新しいということがよくある。 昨今も昔流行ったアイビーが復活したり、スパッツがレギンスと名を変えて現れたり、幾度かの繰り返しがある。 これは母の世代の良いものが子の世代に引き継がれるからだと推測されるのだが、今はインターネットの時代で、容易に時間を超えたものを見たり調べたりできるので、サイクルが早く、またいろんな角度で昔が現れてきているようだ。 この前女の子のマニキュアの話になって、最近は男でも透明のマニキュアを塗るようになっていると聞いたのだが、僕が大学生の時にも同じように透明マニキュアが流行った。 僕たちの頃はただのファッションだったのだが、今は身だしなみの一つとして、髪を整えるような感覚と同じに、マニキュアを塗るそうである。 大変な時代である。 音楽に話を戻すと、昔の楽曲は、生演奏なので、90年代のテクノポップから派生する所謂打ち込みとは全く違う、味わいがあったりする。 別に打ち込みに味わいがないわけでもないのだが、指揮者がいて、オーケストラがいるようなステージで熱唱する姿は、どことなく豪華さを感じ、また、音楽がエンターテイメントだったことを思い出させる。 それは映画にも言え、昔の映画は人の手のぬくもりがあったように思う。 映画を観に行って最初にどーんと出るタイトルバック。 文字は筆で書いたような自体で、そのあとに、大きすぎるBGMと共に流れる赤文字のスタッフロール。 主役はもちろん中央にドーンである。 そして長すぎるタイトルのあとに、綺麗さの欠片もない男のアップから始まる。 内容も今の様にCGなんかは使わない。フィルム時代なので画像も今より荒く、配色も全体的に薄い。 内容は陳腐でただただ飽きない作り。シンプルさ故にストレートに心に入る。 映画の役割はただの時間つぶしであると主張するかのように、時間の中に喜怒哀楽を詰め込む。 しかし見終わったあとの爽快感や、心躍る気持ちは、やはり映画館でしか感じ得ないだろう。 今の時代は良くも悪くも、綺麗に仕上がりすぎている。 別に雑なのが良いわけではないが、映像は美しく、物語も矛盾なくディティールにこだわるものが多く、その分内容が複雑で、役者に勢いがない。 音楽も同じで、曲は確かに格好よく、世界に通用する音楽が増えてきたと喜ばしい反面、何だか画一的な、こじんまりとした世界になってきたなあと思ってしまうのは僕だけだろうか。 ファッションのように、音楽や映画も一周回って欲しいなあ、とは思うのだが、そこは今の技術が加わり、より楽しい仕上がりになっていくのは映画人、音楽人の才能の賜物かもしれない。 などということを、引退宣言を先日された宮崎駿さんの「風立ちぬ」を観ながら思っていたのだが、おんなじことを「ジャンゴ」でも感じた。 監督は「キル・ビル」のあの変わり者である。 長い映画で、しかも西部劇で、黒人の差別も入るというから、どんな映画だと思いながら観たのだが、なんとも痛快で、そして昔の映画にあった安っぽさや泥臭さもあって、久々に映画らしい映画を観た気がした。 昔ヤクザ物の映画を観て、劇場前で肩に風を切って歩く姿を思い出し、改めてタランティーノの映画に対する愛情のようなものを感じた。 技術や先人の知識だけに頼って小さくまとまらずに、先人のものを利用した上で、今の技術と感性を盛りつけ、古いが新しい世界を見せてくれる。 バカバカしさや痛快という陳腐な言葉に片付けられてしまうこの映画名のかもしれないが、僕は寧ろ一周回って新しさを感じた。 本当に素晴らしい才能を持った監督だと改めて感じてしまった。 特にご自分が劇中で爆死するところなんかは、バカバカしさを越えて、感動しそうでした。 まだ引退しないでください。
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