ニュースの天才

監督 ビリー・レイ
出演 ヘイデン・クリステンセン
制作 2003年アメリカ カナダ

真実を追求し、明らかにしていく行為は、しんどくて、損も多く、報われないことだらけだろう

(2012年06月16日更新)

  • スクープ記事というものがある。 最近でこそあまり「ああ、これはスクープだなあ」と思うものは少なくなったが、昔はよく耳にした。 記憶にあるのは「リクルート事件」で、僕はまだ学生だったが、リクルートコスモス社のロゴがニュースで出たときに、実家の最寄駅の新大阪駅前に、大きくそびえるリクルートビルにあったロゴを思い出して、ああ見たことある、と思った。 この「リクルート事件」は、朝日新聞のスクープ記事がきっかけで発覚し、多くの政治家や官僚が逮捕され、報道の力というものを思い知らされる事件だった。 最近ドラマ「運命の人」にハマって、一気に平日3日間で全10話を観終えた。 内容は沖縄基地返還に関する協定で、当時の佐藤栄作政権下でアメリカとの密約があったとする外務省秘密文書を、毎日新聞社西山太吉元記者が社会党議員横路議員らを通じ、世に出した事件で、その入手先となった女性外務省事務官と共に逮捕、起訴される所謂西山事件である。 僕はこの西山事件は歴史を覚えるように知識として知っていたが、ドラマになると、その事件に関わる人々の思いのようなものがあり、また報道というものが本来持つ、高潔さを感じ、フィクションとは言え、この国のあり方に憤慨した。 実際の西山氏のやり方については、ドラマのようではなかったかもしれないし、そのやり口については眉根をひそめるかもしれないが、その記者として使命を全うせんと考えた行動は、尊敬に値する。 ドラマの中でナベツネさんがモデルらしき人が法廷で言うセリフがあって、「記者はスクープを取るためなら相手を唆す。その行為自体がダメだというのなら、権力の横暴を許すことになる。それは民主主義の崩壊である」と言うような演説をする場面がある。 この場面に、第二次世界大戦時の日本の社会が、言論を封殺し、軍部が国民に情報を隠匿し続けた状況を思い出し、胸が熱くなった。 報道とは本来、そういう無辜の人々が権力により弾圧されたり、時には間接的に命を奪われたりすることが無いよう、ペンの力で世論に知らしめていくことで、著名人の浮気報道が主ではない。 報道の意味をパパラッチ行為や、スキャンダルに特化している今のこの国の状況は、やはり僕たちが余りにも権力に対して無関心で有りすぎたせいかもしれない。 そんなことをドラマで感じさせられるとは思わず、びっくりしてしまった。 「運命の人」は時代背景や、当時の人々の考え方なども垣間見ることができ、生まれて初めてと言ってもいいと思うが、テレビドラマにハマり楽しむことができた。 昔観た映画「ニュースの天才」は、どこに行った帰りか忘れたが、帰路の飛行機の中で観た映画だ。 この映画は、特ダネの捏造が物語の骨となっているが、問題の本質は、捏造ができる背景である。 得ダネは見る側にとっては当然だが面白い。 しかし特ダネが生まれる過程にある、記者自身が持つ、面白い記事を書きたいという功名心と、読者の野次馬的好奇心を共通項として生まれ、その記事についての真偽を確認するための、社会的背景などに着目しないと、特ダネはとんでもない社会的損失を与え、行き過ぎたものは捏造として世に出ることがある。 例えば巷にある雑誌などは嘘も多いし、誇張も山ほどある。 雑誌はその記事に対し、訴えられないギリギリの嘘を書いて読者の目を惹こうとするし、大げさな表現で驚かそうとする。 見る側にメディア・リテラシーがないので、その誇張の中にある滞った考え方や、何故そのような情報が流されたのか、と言うような社会的な意義を考えることができないため、ただあふれる情報を受け止めて驚くだけで、その情報の信憑性も考えないまま、受け止めてしまう。 捏造が生まれるメカニズムは、見る側の情報の受け止め方が主因であり、あとは編集者の校閲方法などのシステムの問題や、マスメディアの商業体質に依る部分が多いだろう。 それが本来あるべき報道の形を捻じ曲げている気がするのである。 「社会ネタの中には、取材ノート以外にその真偽をチェックできない事実がたくさん書かれている」 映画の中で主人公はこう云う。 確かに机で調べられるものを捏造しても直ぐにバレてしまうし、現代のインターネット社会では意味を成さない。 逆の見方をすれば、取材ノートを持って、現場におもむき、記事を書く記者も少なくなったと言えるのかもしれない。 真実を追求し、明らかにしていく行為は、しんどくて、損も多く、報われないことだらけだろう。 時に反社会的な行動を取らざるを得ないかもしれない。 しかし、我々が真実に対して関心を払わなくなれば、メディアは崩壊し、民主主義は崩壊する。 そして、この国の週刊誌や雑誌、テレビの報道を観ていると、刻一刻と民主主義の崩壊の日は近づいている気がする。
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