日本で一番悪い奴ら

監督 白石和彌
出演 綾野剛 中村獅童
制作 2016年日本

稲葉事件

(2017年01月28日更新)

  • 学生時代カラオケ店のアルバイト先で売り上げを数えると金額が合わないというようなことがあった。 そんな時は当然のことながらレジを打つ人間が怪しいとなるのだが、同僚を責めるわけにもいかず、結局そのまま店に報告することにした。 ある日店の経営をしている不動産屋の社長から電話が入る。 たまたま僕が出ると、最初は優しい口調で「大変なことが起こりましたね」何てことをのたまうのだが、そのうちトサカに来たのか、アルバイトの学生だった僕をののしり始め、対策を取れと、まるで自分の部下を叱るかの如くに電話を切る。 とは言え僕に何かできるわけもないので、結局月日だけ流れ、そんなことが何回か続くと、気づいたら同僚の一人がぱったりと仕事に来なくなったりする。 まあ若気の至りと片づけてしまいたいのかもしれないが、経営者としてはたまったものではない。 なので何とか金を盗まないアルバイトを雇いたいところなのだが、なかなかそうはいかない。 この時は対策らしいものは取れず、僕も就職活動で店をやめてしまったのでよくは知らないが、その後しばらくして店はコンビニに代わっていた。 不正というものは多分人の良心に頼っていくだけでは完全にはなくならないと思う。 特に金銭や色恋については、どうしても欲というものが出てしまい、良心が働かなくなるケースがあるようだ。 例えば金を盗むという行為について完全になくすためには、そもそも金を盗めなくするという事を徹底しなければ難しいのではないかと思うわけである。 1950年代、米国の組織犯罪研究者ドナルド・R・クレッシーと言う人が体系化した「不正のトライアングル」によると、不正が起こる起因要素に、「動機・プレッシャー」「機会の認識」「姿勢・正当化」があるそうだ。 簡単に言うと不正が起こるときには、まずは動機が当人にあり、当人がその不正を働く環境下にあり、且つその正当な理由を当人だけが持っているということらしい。 例を挙げると、ある男が一生懸命仕事をしているが満足な給料をもらえていないとする。 ある日男の同僚が出世をするのだが、彼はどう見ても自分より劣る人間で、どうして自分より評価が高いのか不満を持つようになる。 経理担当だった男はおりしもそういうストレスから夜のお店に通うようになり、金を散在していた。 そしてこう思うようになる。 「自分はこんなにも尽くしているのに、満足な評価を得られず、遊ぶ金にも困っている。これはおかしい。 ちょっと会社のお金を借りて遊興費に使うくらいは許されるのでは?」 そして男は不正経理に手を染めることになる。 ここからわかるように不正というものは、人のエゴイズムから生まれ、その機会を得た時に起こる。 エゴイズムを消し去ることは不可能なので、機会を無くすことしか防ぐ方法は無いのである。 例えば僕の仕事でもあるIT関連では、ITによる情報持ち出しなどのリスクは防げないと考える。 そのためログなどで、誰が何をやったのかが分かるようにしておき、何かが起きた時にはちゃんと提示できるようにすることで、不正の抑止を行う。 簡単に言うと情報は盗めるが盗んだ人がすぐにわかるようにしていることを、機会を持つ人に伝えておくのである。 ばれるとわかっていることをする馬鹿は少なくともIT業界にはいない。 人はばれる不正方法を行うよりは、ばれない不正方法を考える人が多いので、ばれない不正方法を完全に遮断し通知することで、大きな抑止力とするわけである。 ITの発達はいずれはすべての情報をからめとり、こういった不正が起きにくい環境を作ることに成功するだろう。 とは言え、人の不満やフラストレーションが不正の起因になっている事実を知っておくことは必要なことかもしれない。 という事でお堅い内容で始まった今回の映画評は「日本で一番悪いやつら」です。 稲葉事件という実話に基づくフィクションという事で、題材は警察による不正捜査である。 主人公の警察官は、正義のためと暴力団とかかわりを持つようになり、自分の成績のために銃の密売を行い、やがて薬の密売にまで手を染めてしまう。 映画は昭和やくざ者の雰囲気を持っているため、警察官を観ているのかやくざ映画を観ているのかわからなくなるのだが、実話に基づくということを考えると若干背筋が凍る映画ではある。 映画の中の主人公は、出世に対する欲(動機)と警察という立場を生かした夜の街の支配(機会)、及び世の中の暴力団や銃摘発への後押し(正当化)を得ることで、享楽的な思考で悪に手を染めていく。 しかし、その行動に悪への後ろめたさはない。 寧ろ誇りさえ持っているように見えなくもない。 正に不正のトライアングルが警察という組織で特殊な組織犯罪として進められているのである。 これが全国の警察で起きているとしたら、この映画はホラー映画である。 子どもの頃に探偵物語という松田優作さんが演じていたドラマを見ているときに、刑事役でこわもてだった成田三樹夫さんを観ていたおやじが、「刑事もやくざも変わらんからな」とつぶやいたのを憶えている。 実際にそうだとしたら世も末である。
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