今夜、ロマンス劇場で

監督 武内英樹
出演 綾瀬はるか 坂口健太郎
制作 2018年 日本

プラトニックなロマンス

(2020年09月24日更新)

  • ロマンスという言葉は、ウィキペディアによると「ローマ的」という意味で「民衆のもの」という意味があるそうだ。 語彙に照らせばロマンス小説というものは大衆小説ということになろうが、一般にはもう少し狭義の恋愛小説を指す。 ロマンスと言われると何となくだが大人の恋というイメージがあって、ややエッチな印象が無いこともない。 一方でロマンという言葉があるが、この言葉は奇妙奇天烈で、「ローマの」という通常の意味から、ロマン派、ロマン主義、ロマン(ロマンス)語といろいろと使われたりする。 ロマネスク(建築や絵画などの西ヨーロッパを中心に広まった中世の様式の一つ。)なんて言葉もある。 そのほとんどがローマ由来のものなのだろうが、ロマン語に関してはラテン語の方言のようなものらしいので、ロマンとは直接的な関係はないのかもしれない。 ちなみに日本ではロマン主義の作家として、舞姫を書いた森鴎外や高野聖の泉鏡花が有名である。 また浪漫と漢字をあてたのは夏目漱石とのことである。 話ついでに書くと、ロマンという言葉をよく聞くようになったのは、たぶんテレビの影響ではないかと思う。 1980年代に、シルクロードブームなるものがあって、たぶんNHKで放映された番組が火付けなのだろうが、シルクロードを紹介する番組でロマンという言葉が使われた。 例えば「ロマンあふれるシルクロードの旅」とか「歴史ロマン紀行」など分かったようなわからない言葉でロマンが使われていたのを記憶している。 今でも「シルクロード」「ロマン」で検索すると、数ページにわたって紹介記事やらがみられるので、このブームの印象がロマンを広げたのではないかと考えるわけである。 久保田早紀さんの「異邦人」がテーマ曲だったせいか、何となく久保田早紀さんもロマンな感じがするのだが、多分あの素敵なイントロメロディーもロマンっぽいのかもしれない。 とは言えやっぱりこのロマンという言葉はわかったようなわからない言葉である。 ロココ調くらい分からない。(そうか?) 特に「男のロマン」何かは、何となく菅原文太さんがトラック野郎シリーズとかで使っていそうで、本来のロマンとはやや違う気もするし、「浪漫飛行」に至っては飛びまわれこのマイハート状態はもはや不明である。 よくわからない。 マロンならわかるのだが。 しかし、この曖昧模糊な言葉は、多くの人が何となくではあるが認識する共通項のようなものがある。 それはロマンは追うもので、ロマンを感じることで生きることを感じるということである。 言葉としての定義があいまいな分だけ、この言葉は随分と裾野が広いように思う。 この懐の深さを考える時に、時代を少しさかのぼって、例えば中世の、絵画や音楽などの芸術が貴族の者だった時代、文字も読める人が少ない庶民に向けた芸術を、「大衆が喜べる芸術」に対しロマン派やロマン芸術なる言葉を付けたのが原因ではないかと思う。 そういった市井の人々の生活の中にある、ちょっとしたあこがれや胸躍るものに向けられた芸術に対し、この言葉が割り振られたと考えると、言葉の意味の豊富さがあっても納得がいく。 年を重ね今や芸術も文化も庶民のものになった現代の中で、ロマンスやロマンという言葉だけが過去の胸躍らせる印象だけを残し、今も使われているのだと考えると、なかなかに素敵な言葉だとは思う。 ということで今回の映画は「今夜、ロマンス劇場で」という素敵な恋愛映画です。 主人公はまだ駆け出しの映画監督志望の青年で、映画が好きで近くの映画館に足しげく通っている。 特に客のいない夜に貸し切って、映画館に残される古いフィルムを見るうちに、昔の映画に出演する女優に恋をする。 僕も若いころから映画が好きで、青年と同じように恋に近い感情を持ったことがある。 古い映画だと「カサブランカ」のイングリッド・バーグマンが好きで、ヒッチコックのものはもちろん、ハリウッドの頃だけではなく、新人だったスウェーデン時代の映像も観た。 日本では「隠し砦の三悪人」の雪姫役だった上原美佐さんも魅力的で映画を観てすぐに好きになったのを覚えている。 アニメでは「風の谷のナウシカ」のナウシカだろうか。 共通点があるようでないのだが、結局は演じる役柄に対して恋しているのであって、そのイメージに理想を投影させているのだろう。 その僕の思いを知っているかの如く、映像の中の彼女たちは美しく僕に微笑む訳である。 そして僕は触れることのない、彼女たちにプラトニックなロマンスを感じる。 映画では青年の思いは永遠のロマンスとなりえるのか。 思いの純粋さにロマンを感じる。
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