インサイド・ルーウィン・デイヒヴィス 名もなき男の歌

監督 ジョエル・コーエン 、 イーサン・コーエン
出演 オスカー・アイザック キャリー・マリガン
制作 2013年アメリカ

彼の音楽は「金の匂い」がしない

(2015年03月09日更新)

  • 60年代の日本のミュージックシーンを牽引した松任谷由美さんは、若かりし時代、荒井由実としてフォークソングを歌っていらした時、ジーパンを履かないようにしていたそうだ。 理由は本人が話しているのを聞いたわけではないので不確かなのだが、ファッション的にジーパンはダサいと思っていらしたからのようだ。 確かにフォークソングのイメージはビンボ臭いイメージがある。 かぐや姫の「神田川」の世界があまりにもフューチャーされたからだと思うが、当時の日本は貧しかったということも大いにあるだろう。 そんな時代の空気を嫌ってか、人とは違う道を歩もうとした松任谷由実さんは、やはり稀有な才能の持ち主だったのかもしれない。 因みに松任谷由実さんは、自分の音楽がフォークソングのカテゴリーに入ることを嫌い、ニューミュージックと言っていたそうです。 いきなり日本のフォークシーンの話から話を始めたのだが、そもそものフォークのルーツはアメリカで、直訳すると民謡である。 民謡といっても、日本のように癖のある音楽というわけではなく、例えば漁師の歌であったり、市井の人々の物語を歌うことが多かった。 ジョーン・バエズやボブ・デュランが有名で、ビートルズ以前では、ポップソングとして若者にも支持されていた。 フォークというものを誤解を恐れずに定義すると、歌詞に力点を置いたシンプルなポップソングだと思う。 例えば「風に吹かれて」などの反戦歌のようなメッセージ性の強いものと、ボブ・デュランに代表される文学性を感じる詩人のようなものが知られているが、実はその幅は思いのほか広い。 人の持つ思いや悩み、生き様や歴史など様々な要素をフォークに当て込むことができるので、そのすそ野の広さは音楽ジャンルではとびぬけている気がする。 そのかわり音楽性幅は低く、ギター一本で世界を構築できるその手軽さもあって、ややこじんまりとした印象も持ってしまう。 日本では先に書いた神田川の影響で、「四畳半フォーク」なんて呼ばれて、とにかく貧乏が売りだったりするので、今聞くととにかく辛気臭い。 まあ、当時の時代を生きた人々の心には響くのだろうから、昭和後期の生まれの僕には分からないだけなのだろうが。 話は変わるが、最近よくネットからデビューするというような歌手を見かける。 フォーク全盛の時代は、流しから始まって、人気が出たらレコード会社と契約、なんて流れが多かったのだが、便利な時代で、家にいながらにしてデビューまでのお膳立てができるのだから驚きである。 逆に音楽がキャッチーになった時代とも言えて、昔はその曲一本で勝負する歌手、なんてのも多くいたものだが、今は音楽も大量消費の時代に入ったと言えるかもしれない。 また、ライブハウスにしかない音楽というものが確かにあって、決して演奏は上手くはないのだが、何とかして誰かに伝えたいというような情熱がビシビシ感じられるような、そんな形にしにくいものが音楽にはあったのだが、今はそういうものよりも、リズミカルで、刺激がある音楽がもてはやされるようになってしまった。 一方で、アイドルのコンサートに熱中する若者を見ていても思うのだが、彼らはそこで演奏される音楽はどうでもよくて、音楽はあくまでキャラクター付の手段程度になってしまい、歌い手にしか興味を持っていないように見えてしまう。 例えば、アイドルに会うために同じCDを何枚も買うファンなんかを見ていると、僕が子どもの頃に集めていたビックリマンシールを思い出す。 知らない人のために書くと、ビックリマンシールはウェハウスのお菓子なのだが、中にシールが入っていて、そのシールが大流行した。 子どもたちは、シール欲しさになけなしのお小遣いをはたいて買うのだが、あくまで目的はシールなので、肝心のお菓子を捨てる子がいたりして、ちょっとした問題になったりした。 言わばおまけが商品を凌駕してしまったパターンである。 アイドルのCDも同じ原理で、付加価値の方が商品を上回ってしまっている。 彼らにとって音楽は、演者に会える場であり、ひょっとしたら音楽でなく、別にミュージカルとかでも良いのかもしれない。 音楽がビジネスである以上、付加価値による集客は否定しないのだが、もっと形になっていないモノへの愛情というものがあっても良いように思う。 荒削りだが、金の匂いがしない音楽。 そう言ったものが、もう少し世に出てきても良いのではないだろか。 ということで、今回は音楽映画である。 大好きなコーエン兄弟の作品でルーウィン・デイヴィスという架空の歌手の話である。 架空といっても、ベースはグリニッジ・ヴィレッジのフォーク・シーンの中心的人物だったフォーク・シンガー、デイヴ・ヴァン・ロンクがモデルになっており、作中の演奏も実に深みがあって良い。 ルーウィン・デイヴィスは、とにかく金がなくて、家すらなくて、彼女からも嫌われ、音楽をやることで周りから随分と嫌われている。 いつか成功を夢見て、彼は歌い続けるのだが、ルーウィン・デイヴィスの歌声はそんな惨めな男を感じさせない、素晴らしいギターの演奏と、味のある歌声を聞かせてくれる。 しかし、彼の音楽には「金の匂い」がしない。 オーディションには落ち、素人のような歌手が出る場末のステージに立ち、それでも彼は歌うことしかできない。 そんな哀愁が見事に描かれている。 現実の音楽シーンでは、ボブ・デュランという天才歌手が現れ、フォークはブルースやロックへと移行する。 この過程の中で、音楽は少しずつ現代音楽と融合し、複雑に変化を繰り返していく。 日本でもフォークソングはエレキとつながり、やがてポップな一面を持つようになる。 音楽の原点は明るく楽しいものなので、それはそれでも良いとは思うのだが、荒削りで、金の匂いのしない、磨いてもいないナイフのような、切れ味の悪い音楽ももっとあっても良い。
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