ルーシー

監督 リュック・ベッソン
出演 スカーレット・ヨハンソン モーガン・フリーマン
制作 2014年フランス

脳の機能の100%を使う

(2015年01月27日更新)

  • 脳の機能というものは不思議なもので、事故で脳の一部が欠損し、普通なら植物人間化するところを、脳の他の機能が欠損した部分を補うことで、普通の生活が送れるようになる、というようなことがある。 何故そうなるのかは、生命の神秘と言えばそれまでだが、人間のカラダは小さな宇宙であるなんて言い回しもあるように、我々が想像もつかないような仕組みが生き物の体には備わっているのかもしれない。 人はその神秘的なものが何なのかを調べるために、知恵を増やし、知識を積み上げている。 「人間の脳は10パーセントしか使われていない」 この有名な言葉は、かの物理学者アインシュタインの言葉と言われている。 僕もこのエッセイを書くときにネットで調べ物をするまで知らなかったのだが、実際は『アインシュタイン、神を語る』という本にそう書かれているだけで、本人が実際に口にしたという証拠はないそうだ。 誰が言ったかはさておき、現実的に脳はその機能を十分に果たしているとは言い切れない。 おそらくだが、脳の機能という意味では、昔の人より現代の人の方が能力が下がっているのではないかと思うくらい、僕たちは考えるということをあまりしなくなったような気がする。 人類は知恵の部分では確かに過去の人々に比べ物にならないくらいの量を持っているが、それは過去の知識の積み重ねで賢くなったと思い込んでいるだけで、本当に賢くなったかどうかはよくわからない。 「私たちはいつか、少しは今よりは物事を知るようになるのかもしれない。 しかし、真に自然の本質を知ることは永遠にないだろう」 これは本当にアインシュタインが言った言葉である。 僕たちはいくらか賢くなっても、結局は津波の危機に直面した時は無力であり、地震の発生場所を予知することもできない。 我々は未だに重力の謎について知りえないし、何故地球ができたのかを知ることはできない。 所詮人が2000年の間に蓄えた知識などは、自然の中では唯一瞬のつむじ風くらいにしかならない。 僕はいくらか年を取って、想像力というものがいかに大事であるかということが少しづつ分かってきたような気がする。 知識は蓄えるのに時間がかかり、知性や知恵というものは、時間が経てば忘れて、いずれ潰えてしまうが、想像することを忘れなければ、人はいつまでも探究心を持ち続けることができる。 探究心さえ持っていれば、人はいつまでも学ぶことができるし、その考えを引き継ぐこともできる。 そして学び続けることができれば、人はいつまでも進化し続けるのではないだろうか? 一方で、科学の分野で人体の不思議についての解明が進んでいる。 そもそも、全ての物質が細胞というごく微細な単位で出来ているという考えは、古代ギリシャやローマ、インドなどでも見られ、これまで多くの学者がその小さな世界への探求を行ってきた。 小さいものを突き止めることで何がわかるのか? それは大きな世界である宇宙の謎に向かうことにつながる。 宇宙は何もない無の状態から組成され、一気に広がった。 原子宇宙を構成していたものは水素だった。 その最小の元素はやがてあらゆる物質に転化していく。 科学の階層構造を表すウロボロスの蛇は正に蛇が自らを飲み込み創造を繰り返す。 その繰り返しこそが人類の叡智となっていく。 映画「ルーシー」で描かれる脳の覚醒は、誰も見たことがない世界であり、誰も証明することができない世界である。 映画では皮肉にも、人類の作り出した物質cph4という合成新薬によって脳が覚醒し、人知を超えた力を得る。 宇宙を作ったビッグバンのように、最初はごく単純な(?)一撃で世界は広がるものなのかもしれない。 覚醒はまずは痛みを忘れ、次にエネルギーや電波など、あらゆるものを視覚的に捉え、支配することができるようになり、やがて、他の人類の生命エネルギーをコントロールできるようになる。 そこには電磁波や重力、弱い力や強い力など、全てのエネルギーをルーシーは捉え、感知し、操ることができるようになる。 脳の機能の半分を覚醒する頃には、全ての物質のコントロールを可能にし、原子レベルでの物質変異を行うことができるようになる。 彼女は言う。 「車という物質を極限までスピードを上げれば、その車は空間から消失する」 この場合、車は消滅はしていない。 しかし、物質としての車は存在しない。 高速に達する時、その物質は揺らぎ、物質としての体を成さなくなる。 物理の法則に時間を登場させる相対性理論である。 物語の着想として、「脳の機能の100%を使う」ことに対しての結論はやや疑問は残るが、この物語はこれからの人類の、とりわけ科学の行方のように感じられた。 いつか科学の統一理論として、重力や電磁気力などの正体を調べ、4つの力を統合する。 結果、全ての物理法則を支配し、錬金術のように物質から物質を変異する技術を身につけていく。 そして時間を制し、時間の概念を払拭するようになると、最後に人は肉体の意味さえも無くし、ただ一つのデータとして生を全うとする。 しかし、人類は全ての知を得て、時間も空間も支配することで、次に人類は何を支配するのだろう。 僕はその時に人類を支配するのは想像力ではないかと思う。 想像することで、すべて終わりにはならない。
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