マーシュランド

監督 アルベルト・ロドリゲス
出演 ラウル・アレバロ ハビエル・グティエレス
制作 2014年 スペイン

勇気があれば、世の中もまだまだ捨てたものではない

(2016年06月27日更新)

  • ひとつの嘘をつくことで、一生嘘をつき続けなければいけなくなることがある。 フランスだったか、あるエリート大学生だった男は、好きな同級生に気に入られるため、世界的機関のWHOに内定が決まったと嘘をついてしまう。 しかし、実際は大学さえも中退する始末で、就職も決まっていない。 嘘をつくことでまんまと付き合うことになった男はその後、同級生とも結婚して子供ができるまで実に二十年近くの時間嘘をつき続ける。 しかし、ある些細なことがきっかけで、妻にウソがばれてしまう。 その妻のショックは幾何かだっただろう。 最終的に男がとった行動は、一家惨殺だった。 この話は極端な例かもしれないが、世の中には否定できなくなってしまった嘘を抱えて生きている人は結構いるのではないだろうか。 しかし、どんな嘘であれ、その嘘を取り繕おうとすると、どこかでほころびが生まれるものである。 ただ、それは自分を守るための嘘であったりする場合で、これが大きな組織の中にある嘘だと、意外とわからない場合がある。 正確に言うと分からないわけではないのだろうが、分かってて誰もその嘘を表に出す人がいないのである。 組織というものは厄介なもので、自分の判断だけだとはっきりと間違いだと気づくことでも、周りでその嘘を共有するものがあることで、罪悪感が薄れてしまうのか、それがどんなに罪なことでも、平気で隠すことができる。 例えば戦時中のドイツや日本も、どれだけ多くの人が間違いに気づいたかしれないが、その間違いにさも気づかないように振る舞い、国家の嘘に加担してしまう。 昔起きたカルト犯罪や、会社ぐるみの詐欺なんかも、なんて悪い奴らなんだと思う一方で、いつか自分がその中にいて、同じように口をつぐんでしまうことがあるかもしれないという恐怖も感じてしまう。 ということで今回は珍しくスペイン映画の「マーシュランド」を紹介します。 スペイン映画といわれると情熱的な恋愛映画を何となく想像してしまうのだが、マーシュランドは暑さと死体で始まる、サスペンス映画である。 物語は片田舎で起きた姉妹の惨殺事件の解明を行う映画だが、この映画にはどこか嘘のにおいが漂う。 町の人間の嘘や、姉妹の父親、そして事件を探る警官。 その違和感はじめじめとした梅雨の晴れ間のような嫌悪感を伴いつつ、いずれ事件は核心に迫っていくわけだが、物語の中で多くの悪意が見え隠れする。 その悪意の元が、組織を守るための嘘であり、自分を守る嘘でもある。 マーシュランドとは湿地帯のことらしい。 じめじめしたイメージとは異なり、鳥の飛来地や、そこにしか生息しない生物がいたりして、生物にとっては無くてはならないものである。 環境的には湿地帯を残しておくことで、自然を守ることに貢献することができる。 守られることで、固有の生態系を維持し、その中の生物は生を謳歌できる。 しかし、その生態系は時に、他の世界から見ればいびつなものになっているかもしれない。 だが、湿地帯の中で暮らすものにとっては、どんな嘘や間違ったものを含んでいても、それが全てでありルールである。 そのルールに従い、口をつぐんだとしてもそれ自体が悪いことであることを強く非難できるかといわれると、僕自身は難しいとは思うのである。 ただ、自分が湿地帯の住人で、狭いコミュニティーの中で間違ったことをしていると判断した場合、自らその場を去ることはできるのかもしれない。 そういう勇気があれば、世の中もまだまだ捨てたものではない。
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