塩を撒く事で清められるのか?

たかだか塩を撒く程度で社会が良くなるのであれば、撒き続ける方が断然良い

(2012年10月29日更新)

  • 先日葬式に出た帰りに香典返しの荷物の中にあった塩を見て嫁が、「体に撒かんででいいの?」と聞いてきた。
    「魚やあるまいし何で塩を体に撒かなあかんねん」と言うと、「でもお清めの塩って書いてあるよ」と言う。 確かに書いてあるので、ああ、そういえば穢れを取るために塩を撒く風習があったなあと思ったのだが、穢れって何やと思い直し、パソコンを調べると、なるほど蘊蓄が書いてある。 それら薀蓄をまとめると、死はおそろしいのでその死を近づけさせないよう塩を撒くということであろうが、そもそも何故塩がお清めになるのか? タレントで、オカルトの批判家として有名な、松尾貴史さんの著書によると、「塩が海から取れるもので、アワビ熨斗や飾り付の昆布など、海から取れるものを神聖視する風習が多くあったために、その元になる塩にも同じく神聖視する動きがあったのではないか」と推察していらっしゃる。 古事記でも、イザナギが黄泉の国で妻のイザナミの腐敗した姿を見て逃げ帰り、海水で穢れを祓ったということが記されているようで、塩が身を清めるというイメージは太古からあったようだ。 現代も相撲で十両以上になると、塩を撒いて土俵で戦うのは、これらと同じ清めの塩の意味合いが強い。 塩が清めの物質になり得たのには、塩が食べ物の腐敗を遅らせる効果があり、腐らない、つまり死なないというイメージから、死を近づけさせないというイメージに転化されたのだろうと思う。 また塩には人間が生きる上で必要なエネルギーが入っており、人は塩から力を得ていたということもある。 考えてみればこの塩という物質は人間の生活に定着した調味料で、例えば昔の人はあら塩で歯を磨き、口臭予防と歯を研磨して白くする効果を知っているし、塩が水分を吸うことで、部屋の湿気を取ることができることを知っている。 世界的に見ても、塩の語源と給料を指すサラリーの語源が同じところから来ているのは、昔兵士は塩を買うための給金をもらうために出仕し、給金を得ていたという所から転化してサラリーになったそうで、塩は古代の時代から人間にはなくてはならないものだったのは言葉からも理解ができる。 塩が持つこれらプラスのイメージが、お清めのアイテムになったのは、何となく必然のような気はするのである。 しかし、そもそも何故死者が悪しきもので、穢れを祓う必要があるのか、ということに疑問が湧く。 死は平等にやってくるはずなのに、どこか死者に対し悪いものに仕立てようという感じがする。 そもそも塩を撒くというのは、映画「男はつらいよ」で隣のタコ社長を追い出すときに、「塩をもってこい」と言ってツボから投げつけるように、招かれざるものを節分の鬼ばりに力ずくでも追い払おうと言う気迫を感じる。 しかし、その死者は数日前迄は普通に生きていて、近所のスナックの小ママに「じゃあ、今日の夜にでもまた顔出すわ」なんて事を言っていたのに、心筋梗塞とかで急に死を迎えることで悪しきものになってしまうのも、何だか相当な理不尽さを感じてしまう。 そう思うのはどうも僕だけではないようで、最近では特に仏教世界では、清めの塩を無くす方向になっている。 仏教世界では生と死の世界に隔たりは無いと考えられているので、死者を悪しき目で見るのは可笑しいという論調だそうで、塩のお清めとしての効果を否定しているのではなく、死者の尊厳の問題として提起をしているようだ。 また、最近の人は昔の人に比べ、案外死というものを科学的に受け入れているので、そんなに畏れを持っていないのかもしれない。 僕自身も、急に明日死んでしまうと決まっても、どぎまぎはするが、ああ痛くないといいなあ位で、そういった意味では清めるという行為の意味合いも、余りよくわからない。 清めるということがそのまま悪しき者からの回避であれば、それはその悪しき者の正体を突き止めてからでないと、塩が効くのかどうかはわからない。 そもそも塩化ナトリウムに弱い物質って、大したことないんじゃね、と思ってしまう。 ここからは提案なのだが、清めると言う行為は、リトライと言う意味であれば良いのではないか。 今までの自分を変えて何かに望むこと、または今までの自分の悪い部分を消し、もう一度最初からやり直すことの方が些か建設的な気がする。 塩を撒くことが悪を遠ざけるものではなく、寧ろ懺悔のような行為とし、そう信じることで、自分もそして自分を形成する社会も、随分良くなるのではないかと思うわけである。 裁判でも塩撒きの刑みたいなものがあって、悪い奴は、塩を体に1年撒かれ、心が浄化してから社会に出る。 たぶん塩自体にそのような効果は微塵もないとは思うが、そう信じることで犯罪が減るのならばそれに越したことはない。 まあそんなお気楽な社会は来ないだろうが、たかだか塩を撒く程度で少しでも良くなるのであれば、撒き続ける方が断然良いということになる。
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