幽霊は本当にいないのか?

脳死の説明で否定することができる霊魂の存在

(2012年07月29日更新)

  • 僕の職場は古戦場の跡だということで、会社で夜仕事をしていると不穏なことがよく起こるという。 例えば、急に書庫の扉が締まったり、トイレの水が勝手に流れたり。 幸いに僕はまだ赴任してから3年、その恐ろしい体験をしたことはないのだが、結構な確率で起こるらしく、会社の人の多くが、まあまあ信じている心霊現象のようだ。 僕も子供の頃は「あなたの知らない世界」何かを見た夜は寝付けなくて、夜中に目を閉じていると、変な模様が見えてきたり、急な金縛り体験にあったりと、怖い思いをしたことはある。 このエッセイを書くのがほとんどの場合深夜なので、急にどこかの業者のワン切り電話がかかってきたりすると、びっくりして何度も電話の方を確かめてしまったりもする。 根が臆病なのである。 とは言いながらも実は僕は幽霊というものは基本的に信じてはいない。 理由は科学を信じているからで、一般論から申し上げれば、人の死に脳死というものがあって、脳死を肯定すると幽霊を否定せざるを得ない。 もし幽霊がいたとして、幽霊が即ち死んだ人間の意思みたいなものを持つ、つまり霊魂だとして、仮に死んだ人間の霊魂が、ふわふわとした物体として意思を持って動くとすると、脳が死んでしまってもその意思を持った霊魂が脳の代わりを補うことができることになる。 今流行りの脳トレも、霊魂があるのなら脳を鍛えてもさほど意味がないということになる。 「いやいや。霊魂というのは意思が物質化したもので、人の死とは霊魂が抜けることによってその機能を終えることだよ」 そうおっしゃる方もいるかもしれない。 つまりは意思とか思念とかを集めたものがあって、それが要はぬいぐるみを着るように人のからだの中に入っていて、それが魂なんだよ、ということらしい。 つまり脳死も、脳死によって魂が抜けてしまい、死に至るということだろうか。 この考えは仏教的な考えなのか、日本人に何となく定着している考えのようで、多分霊魂を信じる人は漠然とこの説を信じているのではないかと思う。 しかし、それが目に見えないとは言え意思をもって動くのならば、相当な数の分子の集まりだろから質量があるはずで、質量がある以上何らかの形で計測ができるはずだが、かつて計測ができないのはどういうわけか。 「馬鹿だなあ。霊とは人の呪いや怒りとかの負の感情が作り出すものじゃないか」 と、まるでグリム童話に出てきそうなことをおっしゃる御仁もいるかもしれない。 確かに地球上が全て物質に溢れている以上、何らかのエネルギーを生成し、それがその空間にとどまることはあるのかもしれない。 しかし、それが本当なのであればこの世の中にどれだけの負のエネルギーとやらが溢れているのか? 特に関東なんかは大地震や空襲に見舞われ、さぞ無念の中死んでいった人がいただろう。 そうなるとどこもかしこも霊だらけ、ということになるのだろうか? と、まあ、霊や魂を否定するのは、今の世の中だと結構たやすい。 特に素粒子物理学が進歩した今、霊魂というものではなく、宇宙の中の目に見えない物質がどんどん作られることで、その正体が分かり始める今、人の体が作り出す、霊魂という大きな(大きいと思われる)物質が解明されていないということは些かナンセンスな気はする。 とは言うものの、一方でこういう話がある。 1988年アメリカのコネチカット州の病院で、心肺同時移植手術を受けた女性患者が、その臓器を提供した男性の趣味嗜好や、記憶の一部を有していたという有名な事件がある。 記憶転移というこの現象は、臓器内の神経組織の一部が記憶を持っているのではないか、という説があり、特に心臓移植に多いと言われるため、まさしく心臓は「ハート」なのだと妙な関心をしてしまった。 また樹木に毎日憎悪の感情をぶつけていると、その木は枯れてしまう、という実験もある。 人の意思が臓器に宿るとなると、ひょっとしたら何もない空間の中にも意思は宿るかもしれないし、愛用している人形にも宿るかもしれない。 否定する材料はたくさんあっても、日々の生活の中で起こる神秘的な事象や、人の築き上げた考えまで変えるほどの説得力を、科学は持ち得ない場合もある。 大概は無知からくるものかもしれないが、論理や理屈より、人は自分の見たものを信じるからだ。 将来的に科学がこれらを解き明かす日がくるのかもしれないが、いずれにしても人間の精神世界を解明することは、科学や論理の世界ではなく、やはり宗教や芸術的なスタンスからしか無理なのかもしれない。 まあ悪い霊が憑いているのでこのツボを買いなさい、的な物言いでなければ、霊魂の存在議論も人の精神世界の探求と考えれば、なかなか良いものではないかとも思える。 結論としては、夏の怪談くらいは受け入れてもいいのではないだろうか?
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