ねずみはチーズが好物か?

「猫はネズミを追いかける」「ネズミはチーズが好物」は、厳密に言うと間違いであるという。

(2012年1月更新)

  • 本屋に行くと、昔の漫画なんかをDVD化して販売しているものをよく目にする。 奥さんが買い物中暇だったので、スーパーの中の本屋を何気なくつらつら見ていると、DVDのコーナーに「ドナルドダック」や「トムとジェリー」「ドラえもん」(初期)と、なかなか懐かしいラインナップが平積みされている。 自分が子供の頃によくやっていた映像なんかが安価で手に入るのは、そしてそれをまた自分のこどもが見るのは何だかうけれしい。 家の6才になる長女は、「トムとジェリー」がお気に入りで、本屋でデモンストレーション的にやっているのを見ると、椅子をどこからか持ってきて、食い入るように見ている。 親としては本を探す間こどもがおとなしくて助かるのだが、あまり熱心に観るので、途中で切り上げて帰ろうと言うと、少し嫌そうな顔をするのが難点ではある。 僕も「トムとジェリー」は大好きで、一つ一つの物語の尺は短いのだが、その中に凝縮されたコミカルな動きの世界に魅了される。 物語も単純明快で、ただ猫がネズミを追いかける。それだけである。 猫はネズミを追いかけるものであるというイメージは、この漫画で定着したと言っても過言はないと思う。 そしてもう一つこの漫画は植えつけたイメージは、ネズミがチーズを食べるということ。 特にジェリーの食べるチーズは、黄色くて、穴が空いていて、実際にそんなチーズは見たことはないのだが、トムとジェリーのイメージが強すぎて、大きくなって白いカマンベールチーズを見たときは、これはチーズではないと思ったほどである。 しかし、実はこのアニメで描かれていた「猫はネズミを追いかける」「ネズミはチーズが好物」は、厳密に言うと間違いであるという。 まず「猫はネズミを追いかける」だが、猫は確かにネズミを追いかけるのだが、そもそも猫はネズミが大好物で追いかけているわけではない。 そもそも猫は、野や山で狩りをして小動物や鳥などを捕まえていた。 人間が飼うようになってからもその習性が残り、小さな生き物が動くことに反応しているだけなので、厳密に言うと猫はネズミだけを追いかけているわけではないのである。 ではなぜこのようなイメージがあるのか?これには十二支が関係していると思われる。 実は十二支に猫はいないのだが、十二支の話しには猫が登場する。 知らない人はいないとは思うので十二支の説明は割愛するが、十二支に猫が居ないのは、神様が元旦に訪れた動物を順にその年のリーダーにすると言ったのを、ネズミがそれを一日ずらして猫に伝えたため、猫は十二支に選ばれなかった。 猫がネズミを追いかける構図は、ネズミに騙された猫が怒って、子々孫々までネズミを追いかけているのだ、ということのようだ。 この話が出来た当時からも猫はネズミを追いかけるのは面白いね、というノリがあったということが推察される。 もう一つのイメージである「ネズミはチーズが大好物」というのも、調べてみると昔ネズミが巣を作るのが食品の貯蔵庫とかが多く、そこに巣くっているネズミは、もともと野ねずみの種類なので、硬いものをカリカリとかじる習性がある。 貯蔵庫で硬いものと言えばチーズが代表なので、「あらまあネズミがチーズを齧っているわ。やあねえ」なんてことになるわけである。 ネズミと小人の前からチーズが突然消えても、ネズミはチーズを探しに出ることはないようなので、よく売れたビジネス書も、現実のネズミが相手だと何も起こらず終わってしまう。 最後に今ではメジャーな猫が十二支から漏れてしまった理由を考えてみる。 そもそもネズミに騙されたとしても、今のメジャーさからすれば、猫は当然十二支の中に盛り込みたいところだが、実は太古の時代の猫はどちらかというとマイナーな存在だった。 十二支をウィキって見ると、ベースの物語は中国で作られた「論衡」という後漢頃の書物によって一気に民間に広まったようである。 干支は著者王充(おういつ)のイメージによって、庶民が親しみやすい動物が割り当てられたそうで、その結果、当時の中国にあまりいなかった猫は干支にエントリーされなかったのかもしれない。 まあ、個人的には「竜」は馴染みあるんかい、とは思うのだが、そのイメージが何世紀にも渡って、残されていることは大変素晴らしいことである。 王充が現代に生きていたら、おそらく猫はイノシシの前位に登場していたのだろうなあとは、思うのである。
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